事業承継税制は使えるのか 特例措置の条件と落とし穴
自社株を子どもや後継者に引き継ぐとき、相続税や贈与税の見積もりを見て言葉を失う経営者は少なくありません。「事業承継税制を使えば税金がかからなくなる」と聞いて調べ始めたものの、条件の細かさと期限の話で手が止まった、という相談もよく受けます。使える制度なのか、どこに気をつければいいのか、順番に整理します。
事業承継税制とはどんな制度か
正式には「非上場株式等についての贈与税・相続税の納税猶予及び免除の特例」といいます。長いので、現場ではだいたい事業承継税制と呼びます。先代から後継者へ自社株を渡すとき、本来かかる贈与税や相続税の納付を、一定の要件を満たしている間は猶予してもらえる制度です。
後継者が納税のために会社のお金を取り崩したり、株式の一部を手放したりせずに済むようにという目的でできています。事業承継にかかる税金がネックで代替わりが進まない、という状況を減らすための制度です。
使うには、経営承継円滑化法という法律にもとづいて、都道府県知事の認定を受ける必要があります。認定を受けたあと、税務署に申告して、初めて納税が猶予されます。ここまでの手続きを自社だけで進めるのは正直きついので、税理士との二人三脚が前提だと考えておいてください。
特例措置と一般措置、何が違うのか

事業承継税制には「一般措置」と「特例措置」の二つがあります。もともとあったのが一般措置で、2018年度から時限的に条件を大きく緩めたのが特例措置です。
一般措置は、対象になる株式が発行済み株式の3分の2まで、猶予される割合は贈与税が100%、相続税は80%です。後継者は1人だけ、雇用も5年間の平均で8割を維持できないと猶予が打ち切られる可能性がある、というかなり厳しい条件でした。
特例措置は、対象株式が全株式、猶予割合は贈与税・相続税とも100%、後継者は最大3人まで認められます。雇用の8割維持ができなくても、理由を書いた書類を出せば猶予は続けられます。ここだけ見ると特例措置一択に見えますが、その分、事前の手続きが増えます。ここでつまずく人が多いです。
項目ごとに並べると違いがはっきりします。対象株式は、一般措置が発行済み株式の3分の2まで、特例措置は全株式です。
猶予される割合は、一般措置が贈与税100%・相続税80%、特例措置は贈与税・相続税とも100%です。
後継者の人数は、一般措置が1人まで、特例措置は最大3人までです。
雇用要件は、一般措置だと5年平均8割を維持できなければ猶予打ち切りの対象になります。特例措置は未達成でも理由を書いた書類の提出で猶予を続けられます。
特例承継計画の提出は、一般措置では不要です。特例措置は期限内の提出が必須で、ここが一番の分かれ目になります。
特例承継計画の提出期限、いまからでも間に合うのか
特例措置を使うには、「特例承継計画」という書類を作って都道府県に提出し、確認を受けておく必要があります。認定支援機関である税理士や商工会議所などの専門家が所見を書く欄があるので、自社だけでは完結しません。
この提出期限は、これまで何度も延長されてきました。2026年度の税制改正では、法人の特例承継計画の提出期限が2027年9月30日まで、個人事業の承継計画は2028年9月30日まで延ばされたと案内されています。一方で、実際に贈与や相続で税制を適用できる期限そのもの、2027年12月末までは変わっていないという整理のようです。
期限や条件は制度改正のたびに変わります。ここに書いた日付も2026年時点の情報なので、実際に動く前には必ず最新の公募要領や国税庁・都道府県の公表資料、顧問税理士に確認してください。期限に間に合わせようと計画だけ先に出して、後継者の意思確認や事業の見通しが固まっていない、というケースも見かけます。計画の中身が先です。
「いまから間に合うか」という質問をよく受けます。記事を書いている2026年時点では、まだ提出の窓は開いています。ただし計画を出してから知事の確認が下りるまで時間がかかりますし、その前段階で後継者を決め、株価を試算し、事業の将来像をすり合わせる作業が要ります。期限の数か月前に動き出すのではなく、逆算していまの時点で着手したほうが安全です。提出できるかどうかより、中身を詰められるかどうかで考えてください。
納税猶予が取り消されるのはどんなときか
猶予は「ずっと免除」ではありません。一定の要件を守り続けている間だけ猶予される、という制度です。要件から外れると、猶予されていた税額を、利子税もあわせて一括で納めることになります。ここを見落として、あとで慌てる経営者もいます。
代表的なのが雇用要件です。一般措置では5年間の平均で雇用の8割を維持できないと、原則として猶予が打ち切られます。特例措置では8割を割り込んでも理由書を出せば継続できますが、理由もなく人を減らし続けていい、という話ではありません。正当な理由が説明できることが前提です。
後継者が会社の代表を退いたり、猶予を受けた株式を途中で売ったり贈与したりした場合も、原則として猶予は打ち切られます。会社が資産管理会社のような実体のない状態になったと判断された場合も同じです。事業を続けている実態があるかどうかが、ずっと見られ続けると考えてください。
猶予が続いている間は、一定の期間ごとに都道府県や税務署へ継続の届出も必要です。この届出を忘れただけで猶予が打ち切られることもあります。一度認定を受けたら終わりではなく、そこからが本番です。
事業承継税制を使わないほうがいい会社もある
制度が手厚くなったからといって、どの会社にも向いているわけではありません。使う前に立ち止まったほうがいい会社もあります。
後継者がまだ決まっていない会社は、そもそも計画の作りようがありません。後継者候補が複数いて、誰にするか社内で揉めている状態で計画だけ先に進めると、あとで株式の集中や経営権の整理でもめる原因になります。
近い将来に会社を売る可能性がある会社も注意が必要です。猶予を受けた株式を譲渡すると、その時点で猶予が打ち切られ、猶予されていた税額をまとめて納めることになります。M&Aで会社を手放す選択肢を残しておきたいなら、税制の適用と両立できるか、先に確認しておくべきです。
資産管理会社に近い実態の会社、たとえば保有資産のほとんどが自社で使っていない不動産や有価証券という会社も、要件を満たせない可能性があります。事業実態があるかどうかが問われる制度だからです。
雇用を維持する体力がない会社、数年先の事業の見通しが立てにくい会社も、猶予が打ち切られるリスクを抱えたまま走ることになります。制度を使うこと自体が目的になって、経営の自由度を縛ってしまっては本末転倒です。使わない、という判断も選択肢に入れて検討してください。
税理士に相談するとき、何を聞けばいいか
事業承継税制は、税理士によって得意・不得意が分かれる分野です。相談する前に、聞くことを決めておくと話が早く進みます。
まず、自社で特例措置と一般措置のどちらが向いているか、理由つきで聞いてください。特例措置がいつも正解とは限りません。会社の株主構成や後継者の人数によっては、一般措置のほうが手続きの負担が軽いこともあります。
次に、いま自社の株価がどのくらいで、猶予される税額がどのくらいの規模になるか、概算を出してもらいましょう。数字を見て初めて、制度を使う効果の大きさが分かります。
取り消しのリスクについても具体的に聞いておくべきです。自社の場合、どの要件が一番危ういか、雇用なのか、後継者の続投なのか、会社によって弱いところが違います。想定される場面を一緒に洗い出してもらってください。
最後に、この税理士自身が事業承継税制の申請や継続届出の実務をどれくらい扱ってきたかも聞いていいと思います。制度の説明はできても、実際の書類作成や都道府県とのやり取りに不慣れな事務所もあります。認定支援機関としての実績を確認するのは、失礼な質問ではありません。
自社に置き換えると
ここまで読んで、自社の場合はどうなるか、考えてみてください。後継者は誰にするか、もう決まっているでしょうか。決まっていないなら、税制の話より先に、そこを固める必要があります。特例承継計画の期限までに、株価の試算や後継者との合意ができそうか、逆算して見えているでしょうか。そして、雇用要件や継続届出を何年も守り続けられる体力が、いまの会社にあるかどうかも、数字で確認しておく価値があります。制度を使うかどうかは、この3つが見えてから決めても遅くありません。
よくある質問
事業承継税制を使うと贈与税や相続税はゼロになりますか?
要件を満たしている間は納税が猶予されます。猶予であって免除ではないので、要件から外れると猶予されていた税額を利子税とあわせて納めることになります。特例措置で猶予割合が100%になっても、将来にわたって要件を守り続ける前提があることは変わりません。実質的な免除に近づくのは、後継者がさらに次の世代へ引き継ぐなど、一定の条件を満たした場合です。詳しい免除の条件は専門家に確認してください。
特例承継計画はいつまでに出せばいいですか?
記事執筆時点の案内では、法人の特例承継計画の提出期限は2027年9月30日、個人事業の承継計画は2028年9月30日とされています。ただし期限はこれまで何度も延長されており、今後も変わる可能性があります。動き出す前に、必ず最新の公表資料や顧問税理士に確認してください。
一般措置と特例措置、どちらを選べばいいですか?
対象株式の範囲や猶予割合、後継者の人数まで考えると、多くの会社では特例措置のほうが有利に見えます。ただし特例措置は特例承継計画の提出という事前手続きが必須で、期限も決まっています。後継者が1人で株主構成もシンプルな会社なら、一般措置のほうが手続きの手間が少ない場合もあります。自社の状況を踏まえて税理士と一緒に判断してください。
途中で猶予が打ち切られたらどうなりますか?
要件を満たせなくなった時点で、猶予されていた贈与税・相続税を、利子税とあわせて一括で納めることになります。雇用要件を満たせない、後継者が代表を退く、株式を譲渡するといった場面が代表的な打ち切り理由です。打ち切りになったときの納税額は事前に試算しておくと、いざというときに慌てずに済みます。
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