個人保証は外れるのか。経営者保証ガイドラインと金融機関の実際
「社長を継いだら、あの個人保証も自分が背負うんですか」。事業承継の相談で、ほぼ毎回出てくる質問です。経営者保証ガイドラインという制度があるのは知っていても、実際に自分の会社で外れるのか、外れるとしたら何をすればいいのか、そこがよく分からないまま相談に来る方が多いです。
「保証、本当に外れるんですか」とよく聞かれます
金融機関から融資を受けるとき、経営者が会社の借金を個人で保証する。これが長く当たり前のようになってきました。会社が返せなくなったら、社長個人の自宅や資産まで返済に充てることになります。事業承継の場面では、これが大きな壁になります。後継者候補が「保証まで背負うなら継ぎたくない」と言い出すケースは、決して珍しくありません。
個人保証を外したいという相談は、承継のタイミングだけでなく、業績が安定してきた会社からもよく来ます。ただ、外れるかどうかは会社ごとに条件が違います。ここを整理しないまま金融機関に相談に行くと、話がかみ合わないまま終わってしまうことがあります。
経営者保証ガイドラインとは何か
経営者保証ガイドラインは、中小企業が金融機関から融資を受けるときの、個人保証のあり方を見直すための指針です。全国銀行協会と日本商工会議所が事務局になって、2013年にまとめられました。法律ではなく、金融機関と企業がともに守るべき自主的なルールという位置づけです。
ここでよく誤解されるのが、「ガイドラインがあるから保証は自動的に外れる」という理解です。そうではありません。一定の条件を満たした会社については、保証を求めない、または既存の保証を解除する方向で金融機関に検討させる仕組みです。条件を満たしているかどうかを判断するのは、あくまで金融機関の側になります。

保証を外すために金融機関が見ている3つのポイント
相談を受けていると、ここでつまずく人が多いです。金融機関は主に3つの点を見ています。1つ目は、会社と経営者個人のお金がきちんと分かれているかどうかです。社長の自宅の修繕費を会社の経費で落としている、社長個人の生活費を会社の口座から引き出している、こういう状態だと分離できていないと判断されます。
2つ目は、会社の財務基盤です。借入に対して返済できるだけの利益とキャッシュが継続して出ているか、自己資本がどれくらい積み上がっているか。この2点を見られます。3つ目は、財務状況をきちんと開示しているかどうかです。試算表や決算書を、求められたときにすぐ出せる状態にしているか。年に1回の決算書だけでなく、月次の試算表を定期的に見せている会社の方が、印象は良くなります。
難しく言うとこの3つですが、社長の言葉に置き換えるともっと単純です。「会社の財布と自分の財布を分けているか」「借りたお金をちゃんと返せる稼ぎがあるか」「聞かれたらすぐ数字を見せられるか」。この3つに素直に答えられるかどうかが、実務ではそのまま評価につながります。
例えば、社長個人の口座と会社の口座が今も一部混ざっている会社があったとします。この状態のまま金融機関に保証解除を申し出ても、まず分離を先にやってくださいと言われるのが実務上の流れです。
信用保証協会の枠と経営者保証の関係
信用保証協会の保証付き融資、いわゆる保証協会の枠を使っている会社からもよく質問が出ます。2023年時点では、信用保証協会の保証付き融資について、経営者保証を不要とする制度の運用が広がっています。ただ対象になるかどうかは、法人と個人の分離状況や財務内容によって審査されますので、一律に外れるわけではありません。この分野は年度ごとに要件や運用が変わりますので、必ず最寄りの信用保証協会や取引金融機関に最新の条件を確認してください。
プロパー融資、保証協会を通さず銀行が直接貸している融資については、また別の判断基準になります。同じ金融機関でも、支店や担当者によって温度差があるという声も聞きます。1つの金融機関で難しいと言われても、別の金融機関では条件が整理されていれば前向きに検討してもらえることもあります。
先代と後継者、二人分の保証を背負う必要はあるのか
事業承継の相談で特に心配されるのが、先代の保証がまだ残っているうちに、後継者が新しく保証人として名前を連ねる形です。先代分と後継者分、二重に保証を取られるのではないか、という不安です。
ガイドラインの考え方では、前の経営者と新しい経営者から二重に保証を求めることは原則しない方向性が示されています。承継のタイミングで金融機関に相談すれば、先代の保証をどう外すか、後継者に保証を求めるかどうか、まとめて検討してもらえる余地があります。ただし引き継ぎの期間中、一時的に両方から署名を求められる場面もあると聞きます。ここは金融機関ごとに運用が違いますので、承継の計画を伝える段階で早めに確認しておいた方がいいところです。
実際にどう進めるか。相談から交渉までの順番
保証を外したいと思ったら、いきなり金融機関に「外してください」と言いに行く前に、社内で整理しておくことがあります。まず、決算書を2〜3期分並べて、自己資本と借入のバランスを確認します。次に、会社と個人のお金の流れで混ざっている部分がないか洗い出します。役員貸付金や仮払金が残っている会社は、ここを整理するだけでも印象が変わります。
切り出すタイミングも大事です。赤字の決算が出た直後に頼みに行っても、話は前に進みません。黒字が続いて自己資本が積み上がった決算の直後、あるいは事業承継の計画が具体的に動き出したタイミングが、相談を切り出しやすい場面です。借り換えや新規の融資を相談するタイミングに合わせて話す会社も多いです。
持っていく資料は、直近2〜3期分の決算書、月次の試算表、資金繰り表、そして後継者の名前や引き継ぎ時期をまとめた簡単な事業承継の計画です。ここまで揃えて持っていくと、担当者も上に話を通しやすくなります。整理ができたら、外してほしいと頼むのではなく、うちはこういう体制でやっていますと状況を見せる姿勢で相談します。1回の面談で決まることは少なく、数か月かけて資料をやり取りしながら進むケースが多いです。事業承継のタイミングで交渉する会社も多く、後継者への引き継ぎと合わせて金融機関に相談する方が、話が進みやすいという実感があります。
3要件を満たせなかったとき、次にできること
相談しても保証が外れないと言われることもあります。ここで終わりではありません。信用保証協会の枠の中には、保証料を通常より多めに払うことで、個人保証をつけずに融資を受けられる制度が用意されています。細かい条件や料率は制度で決まっていますので、最新の内容は取引金融機関か信用保証協会に確認してください。
今回は難しいと言われても、決算をもう1期重ねてから、あらためて相談する道もあります。自己資本が積み上がる、役員貸付金が減る、そうした変化があれば評価も変わってきます。また、商工会議所や事業承継・引継ぎ支援センターには、経営者保証に関する相談に乗ってくれる窓口があります。金融機関との交渉に慣れた第三者を間に入れることで、話が整理しやすくなることもあります。
会社を譲るとき(M&A)、保証はどうなるか
M&Aで会社を第三者に譲る場合も、個人保証は必ず論点になります。譲渡が終わっても、前の社長が保証人のまま残ってしまう、ということが実務では起こります。買い手側が保証を引き継ぐのか、金融機関に交渉して前の社長の保証を外してもらうのか、契約を詰める前に決めておく必要があります。
保証が外れるかどうかは、会社の財務内容や、法人と個人のお金の分離がどこまで進んでいるかによって判断されます。ここは事業承継のときと同じ考え方です。M&Aの話が具体的に動き出したら、契約書の中身を詰めるのと並行して、早めに金融機関へ相談しておくことをおすすめします。譲渡が成立してから保証が残っていることに気づく、というのが一番避けたい展開です。
自社に置き換えると
自分の会社の場合はどうか、確認しておきたい問いがいくつかあります。会社の口座から社長個人の支払いが出ていないか。直近の決算で自己資本はプラスになっているか、借入は減ってきているか。試算表を金融機関にどれくらいの頻度で見せているか。この3つを今の状態で答えられるかどうかが、最初の目安になります。
合同会社RYDEENでは、事業承継やM&Aの相談の中で、この個人保証の整理についても一緒に確認しています。相談は無料です。制度の細かい要件は年度で変わりますので、実際の判断は必ず取引金融機関や信用保証協会の最新の案内でご確認ください。
よくある質問
経営者保証はどうやったら外れますか
会社と経営者個人のお金がきちんと分かれていること、借入を返せるだけの利益と自己資本があること、試算表や決算書をすぐ開示できることの3つが目安になります。この3つを満たしているほど、金融機関が保証なしの融資に応じやすくなります。ただし最終的に外すかどうかは金融機関の判断です。自分の会社がどの位置にいるか分からない場合は、まず取引金融機関に相談してみてください。
事業承継のとき先代と後継者の両方が保証人にならないといけませんか
ガイドラインの考え方では、前の経営者と新しい経営者の両方から二重に保証を求めることは原則しない方向性が示されています。ただし引き継ぎの期間中は一時的に両方から求められる場合もあります。承継の計画が具体的になった段階で、先代分の保証をどうするか金融機関にまとめて相談するのがおすすめです。運用は金融機関ごとに違うので、早めに確認しておくと安心です。
個人保証を外してもらえなかった場合はどうすればいいですか
すぐに諦める必要はありません。信用保証協会の枠の中には、保証料を多めに払うことで個人保証なしの融資に切り替えられる制度もあります。決算をもう1期重ねて自己資本や利益の状況が改善してから、あらためて相談する道もあります。商工会議所や事業承継・引継ぎ支援センターなど、交渉に詳しい第三者に相談するのも一つの方法です。
M&Aで会社を売却した後も前の社長の個人保証は残りますか
何もしなければ、譲渡後も前の社長が保証人のまま残ってしまうことがあります。買い手側が保証を引き継ぐか、金融機関に交渉して前の社長の保証を外してもらうか、契約を詰める前に決めておく必要があります。譲渡が成立してから保証が残っていることに気づくケースもあるため、M&Aの話が動き出した段階で早めに金融機関へ相談してください。判断は個別の財務状況によるので、専門家にも確認しておくと安心です。
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