寒露に、足元から立て直す
新暦でいうと10月8日ごろ、寒露に入ります。涼しさが冷たさに変わって、朝晩の露が霜に近づいていく時期です。虫の声が濃くなって、山も色づき始める。派手な変化じゃないんですが、静かに季節が一段落ちる感じ、経営者の毎日にもちょっと重なるものがあります。
足元から冷えていく、という話
漢方では、寒さは足元から入ってくると言われています。寒露のこの時期は足の保温に気をつけて、寝る前にお湯に足をつける。それだけで風邪を遠ざけて、血の巡りもよくなるそうです。

なぜ足元なのか、って思う方もいるかもしれません。体の中で心臓から一番遠くて、重力に逆らって血を戻さなきゃいけない場所だからです。冷えというのは、気づかれにくいところから静かに広がっていく。
これ、会社の現場にもそのまま当てはまる気がします。経営者が座っている場所からいちばん遠いところ、現場の末端、取引先との接点、そういうところから冷えは始まります。本社で見ている数字にはまだ出てこない。でも現場はもう寒い。
例えば、毎月の会議で売上と粗利だけ見ている会社があったとします。数字はまだ悪くない。でも現場の担当者は残業続きで疲れ切っていて、辞めたいと言い出す一歩手前だったりする。冷えは足元から来る。数字に出るころにはもう霜になっています。
自分の会社の足元、ちゃんとお湯につけてますか。
マラソンにハマる怖さ
寒露はスポーツの秋、自分に合った運動を楽しむのがいい季節です。ただこの時期気をつけたいのがランニングです。走り始めるとエンドルフィンみたいな脳内麻薬が出て、気持ちよくてやめられなくなる。
そのままアスファルトの硬さに膝が負けて、気づいたら壊してしまう。体にいいことをしているつもりが、無理をしすぎて逆に体を壊す。ほどほどが大事、というのはよく聞く話ですが、実際に自分で線を引くのは難しいものです。
これ、経営の勢いにもそっくりだと思うんです。新しい事業が当たって、勢いに乗って走り出す。数字が伸びる快感は、走るときの脳内麻薬と近いものがあるんじゃないか。止まったら負けだと思って、走り続けてしまう。
例えば、ある年に出した新しい店舗が当たったとします。次の年も、その次の年も同じペースで出店を続けたらどうなるか。資金も人も足りなくなって、膝、つまり組織のどこかが先に壊れる。走ること自体は悪くない。ペースの話です。
いま自分の会社は、気持ちよくて走り続けているだけじゃないか。膝、痛くなってないか。
旬を味わうリズム
寒露のころ、中国では上海蟹の季節です。「馬肥ゆる秋」と言うくらいで、食べ物がおいしい時期。柿、栗、イチジクといった旬のものを口にするのがいい。ただ水分の多い食べ物も増えるので、コーン茶やハト麦茶でむくみをコントロールする。水は気に大きな影響を与える、とも言われます。
旬というのは、待てば来るものです。焦って早く食べても美味しくないし、遅れて食べても味が落ちる。タイミングを見て動く、それだけの話ですが、実はけっこう難しい。
会社のお金の流れにも、近いところがあります。むくみというのは、要はいらない水分が体に溜まっている状態です。会社で言えば、動いていない在庫だったり、回収が遅れた売掛だったりする。栄養にならずに滞留しているお金です。
例えば、繁忙期に仕入れを増やしすぎて、時期を過ぎても倉庫に残ったままの在庫があったとします。もうそれはむくみです。売上には貢献しない。むしろキャッシュを圧迫する。お茶を飲むみたいに、定期的に棚卸しをして流すしかありません。
自分の会社、むくんでいるところありませんか。
導引式という型
寒露の時期の導引式は、足の後ろ側、太陽経筋という筋を伸ばす動きです。息を吸いながら両手を体の前から上げて耳の下に置き、つま先立ちになって体を左にひねる。吐きながら正面に戻して、手を両側からゆっくり下ろす。これを自分の体調に合わせて左右何度か繰り返す。
正直、細かい経路の説明を読んでもピンと来ないところはあります。ただ、決まった型があるというのは、それだけで意味がある気がします。毎年同じ時期に同じ動きをする。体が季節を覚えている感じです。
会社にも、こういう型があるといいなと思います。毎年この時期にこれをやる、というルーティン。売上のためじゃなくて、組織の調子を整えるための型です。
例えば、決算月の前に必ず全員で棚卸しをする、というだけの会社と、毎年バタバタで場当たり的にやる会社。数年経ったら、その差は結構大きいはずです。型は退屈に見えて、実は一番効いてきます。
自社に置き換えると
自分の会社の足元、現場や取引先との接点は、いま冷えていないでしょうか。数字にはまだ出ていない小さな異変を、拾えているか。勢いに乗って走り続けている事業はないか、一度立ち止まって膝の具合を確かめられるか。会社の中に、むくみのように動いていないお金や在庫が溜まっていないか。毎年決まってやる型、季節の節目に手を止める習慣が、自分の会社にはあるか、考えてみてください。
寒露は、大きな事件が起きる節気じゃありません。露が霜に変わるだけの、静かな一歩です。でもその静かな一歩を無視して走り続けると、膝もお金も現場も、ある日いっぺんに悲鳴を上げる。ほどほどに、足元から。今年はそれくらいの気持ちで、秋を過ごそうと思っています。
・文 杉岡茂(初出:逍雲夜話 2023年10月「寒露 十七 / 二十四節気」を再編集)
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