若者に選ばれる会社になれるか
ホーチミンのホテルから書いている。コロナが明けて1年が経ったが、気づけばアジアへ来る目的がまるっきり変わっていた。経営者と一緒に視察で歩き回っていた日々が、今は学生と一緒に大学を訪ねることが主な仕事になっている。
なぜ視察から採用に変わったのか

ひとことで言えば、日本の人口が減り続けているからだ。もっとはっきり言えば、海外のヒトを採用しないと会社が続かなくなってきた企業が、現実に増えてきた。
中小企業の経営課題を並べてみると、今この瞬間、人材確保は最重要かつ最緊急の問題として頭ひとつ飛び出ている。お金は借りられる。設備は買える。でもヒトだけは、すぐにはどうにもならない。「なにがなんでもヒトが資本」——中小企業にとってこれは本音だ。きれいごとではなく。
コロナ前は、企業の海外展開を応援するために経営者と一緒にアジア各地を歩き回っていた。でも今は、そのフェーズが一区切りついた感がある。世界の様相が変わって、アジアへ来る理由が採用になった。
「安く使おう」という思い上がりは捨てろ
技能実習制度の話をしているのではない。マジで採用する、という話だ。はっきりそう言う。
ベトナムやタイの学生たちを実際に見ると、優秀さとやる気の量に毎回驚かされる。例えば、ある大学のキャンパスで会った学生が、日本語と英語を交えながら自分のキャリアプランを5年単位で語ってくれたとします。そのとき「この人を安く使おう」という気持ちは、一瞬で消える。
アジアの学生たちはすでに世界中の企業を選択肢として見ている。日本の中小企業が「選ぶ側」のつもりでいたら、気づいたときには相手にされなくなる。「海外の労働力を安く使おう」という思い上がりは早く捨て去ったほうがいい。感情論ではなく、戦略の話としてそう言っている。
海外と商売するなら、相手国のヒトを先に雇え
アウトバウンドでもインバウンドでも、海外と仕事をしようとしている中小企業には伝えたいことがある。相手国のヒトを先に採用するのが、最良の戦略だということだ。
なぜそうなるか。文化・商習慣・言語の壁は、語学研修では越えられない。でも、その国で育った人が社内にいれば、その人が橋になる。例えば、ベトナムで商品を売り出そうとしている会社が、ベトナム出身の社員を一人採ったとします。市場の肌感覚、現地のネットワーク、やってはいけないコミュニケーションの作法——それが全部、社内に入ってくる。
外部のコンサルタントを雇うより、情報の深さも速さも違う。「まず相手国のヒトを採る」は戦略であって、慈善ではない。
20代・30代の「経営参謀」を置けるか
国内の採用でも、変える必要がある。これまで新卒市場に力を入れてこなかった中小企業の社長たちが、20代・30代の若い「経営参謀」を起用できるかどうかで、これからの明暗が分かれる。在学中の学生でも構わない。アジアの人材でも構わない。若さと熱量を、経営の近くに置けるかどうかが問われている。
でも、若者が来てくれるような会社にする努力をしない会社には、若いヒトは来ない。大企業も中小企業も今は同じ土俵に立っている。むしろ中小企業にはチャンスがある。意思決定が速い。経営者との距離が近い。やる気があれば任せてもらえる。大企業にはなかなかできないことが、ここにはある。
いまだにタイムカードで出勤を管理している会社に、若者は魅力を感じるだろうか。給料よりも意味と意義を重く感じている若者の希望を、応援できるかどうか。そこが決め手になる。
自社に置き換えると
週休三日制を選べる働き方を用意できているか。休日や休憩の取り方を、工場労働を前提にしてきた旧来の発想から、そろそろ見直せているか。「若者支援手当」のような、若いというだけで報いるシンプルな仕組みを、一度でも真剣に考えたことがあるか。
誰かがこんなことを言っていた。「若さはそれだけで正解なんだ」と。その感覚を制度に落とし込めているかどうか、一度立ち止まって確かめてみてほしい。会社に若いヒトが来るかどうかは、採用の問題ではなく、会社のあり方の問題だと思っている。求人票を出す前に、自社がそもそも選ばれる理由を持っているかを問い直す。そこから始めるしかない。
(初出:逍雲夜話 2024年10月「ヒトの採用」・文 杉岡 茂 を再編集)
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