人生はロスタイム

 

 「人生はロスタイム」この名言、だれの名言でしょう?「人生はメリーゴーランド」と言えばジブリの「ハウルの動く城」の主題歌で有名ですが、この名言は実は我らがRYDEENの山下社長の口から出た言葉です。もしかしたらご本人はもうこんなことを言ったことすら忘れておられるかもしれませんが、僕はこの言葉を聞いた瞬間、体に電気が走りました。還暦を目前にして記憶力の著しい減退にも関わらず、メモもせずに覚えています。

 いつ試合終了の笛がなるかわからない状態で、精一杯あらん限りの力を尽くすこと。「一期一会」とか「一日一生」というのも同じことでしょうが、そんな古めかしい言葉より、今の時代を生きる僕には「人生はロスタイム」というのがぴったり来たようです。だいぶ長いこと生きてきましたが、こういう経験はなかなかありません。自分の人生に大きくその影を落とす言葉を日常生活の会話の中でいただくということは…

 この言葉を飲み会の席にて耳にしたぼくは、その後いろんなことを考えさせられました。「覚悟」ということとか、「自由」ということとか、「自立」ということとか、「身に覚え」ということとか、「呼吸」ということとか、しばらく間は「人生はロスタイム」が頭から離れず、それこそいろんなことを考えさせられました。

 どんなことを考えたかはいずれご披露するとして、ぼくの頭から出てきた答えのようなものは「それでも人生にイエスという」というフランクルの言葉です。同名の本もあります。ヴィクトール・エミール・フランクルはオーストリアの精神科医・心理学者です。アウシュビッツで有名なナチスドイツの強制収容所に収容されて生還しためずらしい経歴を持つ心理学者です。「夜と霧」という本で有名ですが、僕は「それでも人生にイエスという」本をお勧めします。この本はいろんなことを教わった故村山幸徳先生にご紹介いただいた本です。

 ぼくなりの要点をいいますと、この本の中でいう「人生」というのは「自分」の外の世界の全体を指します。環境、社会、他人、国家などなんと言っても結構です。そういう人生に対して自分の方から「俺の人生どうなってるんだ?こんな人生に何の意味があるのか?」と問いかけることをやめて、人生の方から問いかけられているんだと意識することが大事だということです。自分以外の存在を批判したり不満をいう態度に幸せはなく、どんなに絶望的な状態でも全てを自分が受容すれば、一筋の希望の光が見えてくる。他人を他者を変えることはできません。自分が変わるしかないのです。幸せになるための第一段階でしょう。みんな本当はわかっているんだけど、他人を恕す自分を許せないんでしょうね。僕もそうですが…

文章:杉岡 茂

写真:伊丸 綾