天道と人道

 

 「天道」とは宇宙法則や自然法則のことで、春の次は夏が来る夏の次は秋が来る秋の次は冬が来る冬の次は春、当たり前のことです。

 「人道」とは人間の欲のことです。今の言葉で言うと便利といってもいいと思います。そして便利さの追求のことを、人間は進歩するといっています。

 では進歩するとはなにか?進歩することはいいことなのか?

 これは天道からみれば必ずしも良いことは言えません。雑草と稲を例に考えてみます。人道から見れば稲は食べられるから欲望を満たす=良いもの、雑草は食べられない欲を満たさない=悪いものと考えます。この人間本位の価値判断で稲は大切にして雑草は排除するということを続けると、その周辺の動植物の生態系が狂い、バランスを崩してしまうことにもなります。良い悪いというのは単なる人間の価値観なので、天道からこの事を見れば稲も雑草も同じ自然のものですから良い悪いというのはありません。

 西洋では、天道と人道がまったく相反するもの、人は自然を克服するものだと考えられていますが、二宮尊徳はこういっています。人道とは天道のなかの一つに過ぎないのだから、人が欲を持つことを認めるから一生懸命に勤勉に働きましょう。でも勤勉にやりすぎたら天道の認めた範囲を超えてしまうから駄目だよと。

 してみると、欲というのも二つあるんでしょうね。欲がいい方に出ると努力とか勤勉とかになるし、悪い方に出ると、強欲とか欲望とかということになるのでしょう。

 尊徳はどう考えたのか?天と人どちらかに偏っても駄目、欲をもって何かを得たいならばいったん欲を捨てて考えましょうってことです。つまり大事なのはバランスなんですね。この考え方はいまの日本ではまだまだ理解の少ない考え方です。しかしぼくはいずれ世界へ広まっていく考え方だと思うし、人間が絶対に学んでおくべきものだと思っています。

 環境と人間という大きな問題でなくとも、私たちの生活の中でも言えることだと思います。会社経営の中でもこのバランス感覚はとても大切なものだと思います。尊徳流に言えば、お客さんと自社と半々の得があるということ、「天と人」この二つが共にバランスよくあることで人は成功を収めることができるのでしょう。

 これに地が入ると「天・地・人」となりますが、しかしとたんに複雑になります。やっぱり三角関係は複雑です。

文章:杉岡 茂

写真:伊丸 綾