社長のお作法

 

 大企業の社長さんと中小企業の社長さんのいちばん大きな違いは何でしょう。大企業の社長さんは雇われ社長で、しかも経営のやり方など会社運営は合議で決めます。一方、中小企業の社長さんはオーナー社長さんで、経営は社長さんの独断で進みます。つまりワンマン経営です。中小企業は中小性よりも同族性にその本質があることから、そんなことには無関係の大企業のやり方をマネするとロクなことになりません。中小企業は中小企業らしく、正々堂々ワンマン経営を突き進むのが正解でしょう。

 ワンマン社長の独断によって、中小企業最大の武器である「機動力」のスタート地点である「即断即決」というパワーが生まれます。この世界的大激動の時代をうまく乗り切るためには変化に適応する力が必要ですが、この変化適応力の第一歩が「即断即決」です。こう書けば簡単に聞こえますが、実は日々の経営実務の連続の中で即断即決することはとても難しいことです。何よりも勇気が必要です。中小企業の社長さんの仕事は自分一人で、誰にも相談せずに決断しなければならない孤独な仕事です。

 この激動の時代を乗り切るためにいちばん大事なことがらは「慎独」。勇気の源泉は孤独で、孤独を大事にすることが「独を慎む」ことです。自分一人で考える時間と空間を持つことです。五分でも十分でも構いません。経験的にいうと、人の成長はこの孤独の時間を持つか否か、どれだけ持つか、いつ持つかによるところ大です。「青春の孤独」はその人の人生にとって、とても大事なことです。でも、今の時代は子供にそんなことを教える人はいませんね。

 しかし、社長さんの会社経営は青春映画ではありません。みんなで一緒に考えてみんなで一緒にやりましょうはありません。経営に失敗すれば家族もろとも自分自身が丸裸になります。自分で考え自分で決めて、結果自分が責任を取るのです。そんな中で最後に頼れるのは自分で、稽古千日勝負一瞬、その時に踏み出す勇気がなければ社長はつとまりません。世界でいちばんの武器を持っていても、使う勇気がなければ世界でいちばんのガラクタです。

 では慎独の時間に何を考えるのか。現場のことやら今日の予定のことやら、日々の仕事の延長では意味がありません。何でこの事業やってんだろう、今後の会社の行方をそうすべきか、など大きな絵を描くための準備体操をします。今で言えば、この激動の時代を楽しむためにはどう考えたらいいだろうか、変化に適応するためには変化そのものを知る必要がある、そのためにいろんな情報を収集しよう、そんな情報はどうすれば手に入るのか、変化に適応するために自分の会社をどう変えたらいいんだろう、そうか変わるためのヒトを雇わなきゃ、てなぐあいですかね。

 考え方のコツは、何を考えるにも簡単に考えて単純にしていくことです。つまり、迷ったら「捨てる」ことです。これが機動力の源です。最近は断捨離などというのが流行っているそうですが、「捨てる」ことは現代人がいちばん苦手なことかもしれません。

 RYDEENは、社長さんの思考方法として、①二極思考 ②全体個別思考 ③優先順位思考という3つの思考方法を教えていますが、これらは捨てるための考え方で、最終的には社長さんが機動力を身につけることを目指しています。このような思考方法を身につけた上で経営のOSを装備すれば、あとは何をどう考えようが自由です。個性はそのあとのことで、個性は単純な型の上に成り立ちます。

文章:杉岡 茂

写真:伊丸 綾