
浅学非才は承知の上で、この国の心と言ってもいい「もののあわれ」について。「もののあわれ」には、神道をはじめ外国からの仏教や道教など多くの考え方が流れ込んでいます。中でも中国の陰陽五行の考え方は、大きく影響を与えました。天の気と地の気とに、つまり天体や自然の運行に人の気は大きく影響を受けるとするのが陰陽五行であって、十干十二支はこれに基づきます。
まず陰陽を理解することはとても手間のかかることですが、とても単純にするとたとえば、善と悪は別々に存在するのではなく、一人の人間の中に不可分に存在するということです。単純に善人と悪人とに分けることはできません。ワイドショーは簡単に善と悪を分けようとしますが、「もののあわれ」には反します。敗者に対するやさしいまなざしがその本質です。「もののあわれ」の代表作品とされる平家物語もこれが主題の一つですね。
次に五行ですが、こちらはもう少し容易に理解できます。中国人は何代もかけて地球という星を観察して、この星は木火土金水の5つの要素によって動いているとつかみました。この星の急激な温度変化か何かによって水が生まれるとマグマが冷えて土が生じ、その土の上には木が生え、土の中には化石鉱石などの石や金属が生成するといったことを、なんと根気よく観察して、その中で人がどう生きるかを考え続けてきたのです。「もののあわれ」もこの流れの中で生まれ育った考え方だと思います。人間の力ではどうにもならないほど偉大な自然の力に身をゆだねる事が人類の生きる道だと。
この五行は突っ込んで話すととても面白いのですが、今日は十干の話だけにとどめます。「木火土金水」は「もっかどごんすい」と読み、この順番が重要です。この五行に陰陽がくっつく。陰陽は兄と弟と表し、兄を「え」と読み弟は「と」と読みます。さて何が見えてきましたか。木の兄が「きのえ」つまり甲ですね。木の弟は「きのと」乙です。いい調子です、最後が水の弟「みずのと」癸です。甲乙丙丁戊己庚申壬癸の十干の完成です。
十干は五行の本質をごく簡単に表したかったんですね。「甲乙丙丁…」はその本質を文字の形で表したものと言われていますが、そのことはおいおいお話ししようと思います。いずれにしても、この大変革の時代。混沌の時代と言ってもいいでしょうか、私たちは生きることの根本に立ち返って人類を見つめ直す時がきたようです。ビジネスの時代が終わるかもしれません。それを今までと同じように続けることはとても危険なことに思います。
文章 杉岡 茂