DXの行方 ⑶

 今年のIT補助金は、今までとはぜんぜん変わってとても使いやすいものになりそうですね。国は今帳簿の電子データ保存や消費税のインボイス制度を強く進めようとしています。今年からこれらを本格的に進めるのに合わせて、IT補助金の制度も大きく変えたのでしょう。会計ソフトやレジや給料計算のしくみや、主に会社のバックヤードの領域でいろんなデジタル化を進めるのにこの補助金は役に立ちます。

 フロント=生産部門のDXはお金をもうける部門ですから大事ですが、今の日本の中小企業にとってはバックヤードのDXがもっと大事です。小さいところから始まって会社が大きく成長しても、会社の基本構造が昔と変わってない会社がほとんどのように見えます。さりとて大企業のように大きすぎるバックヤードも考えものです。

 私たちが目指すべきは「小さくて強いバックヤード」です。この激動の時代に変化対応のできる、機動力のあるしかも強力なバックヤードを作りましょう。それによって、社長さんたちは外向きの仕事ができるようになります。人材にせよ何にせよ、いろんな情報を求めて会社の外に出て「社長の仕事」をしなければ、大きなチャンスを失うことになるでしょう。

 前にもお話ししたと思いますが、DXは「ルール」つまり会社のしくみとか事業のフレームを先に考えて、その後に「ツール」を入れるという手順でやらないと失敗します。ここで「ツール」というのはコンピューターデバイスなどのハードウエアとソフトウエアのことです。ソフトウエアも「ツール」であって「ルール」ではありません。「ツール」に飛びついてしまうと必ず失敗することになります。PayPayなど決済のしかたも大きく変わっています。お金を儲ける仕組みを変えないと儲けになりません。

 そして、DXを導入して推進する人材そして引き続き導入した技術を使って実務を担当する人材について考えてみましょう。まず最初に、DXの専門家はいないと認識することです。AIやクラウドや5GなどのIT技術はこの数年で世の中に普及したもので、とくに日本においては、こういう技術の遅れは顕著です。つまりこれまでのベンダーさんやSEさんの従来の技術は使い物になりません。巨大クラウド企業であるアメリカのGAFAMや中国のBATHが開発した最新のソフトなどを使いこなすことのできる人は、日本全体でもかなり少数です。たとえば、マイクロソフト365を使いこなせる人はそうそういないでしょう。

 まずは一人若い人を入れてみることです。IT技術を開発したり作り出すことは必要ありません。「ありものを使うこと」です。使うことのできる人を、試行錯誤をくりかえしながら育てるしかないと思います。この時代の人材不足と少子高齢化にはDXは欠かせない戦術です。今から備える必要があります。DXにはコストがかかります。

文章 杉岡 茂