健康経営

 最近この言葉をよく聞くようになりました。政府もかなり強力に推し進めようとしているようです。人口が急激に減少し労働人口も見る見るうちに減少していきます。働く人の確保と生産性向上を目的とするのでしょう。しかし、われわれ中小企業は一歩進めて、「働く人の幸せとは何か」ということを考えることが重要です。人の幸せは確かにその人その人によって違うでしょう。でも、経営者と働く人との関係においては「健康が幸せの最低条件」ということだけは言えるでしょう。なんせ健康を失うと働くことができないのです。社長さん、このことを一所懸命考える時です。

 「健康経営」をうまく考えて実践すると、DXによる経営の進化と相まって、大企業とは比較にならないほど強い企業になることができます。DXによる「業務やビジネスの機械化・効率化」も重要な課題ですが、DXは手段に過ぎません。それを使う「ヒト」がもっと大事な問題です。少なくとも「DX」と「ヒト」は今後の中小企業の飛躍にとって、不可欠の両輪であることは間違いないでしょう。労働人口の減少により、ヒトの重要性は今後一段と高くなるでしょう。

 中小企業の成長に欠かせない他社との差別化も、今後はその会社が社員のことをどれだけ考えてどう扱うのかが大きなポイントになります。働く人のマインドとくに若い人のマインドはこの数年で大きく変化しました。そういう変化に自分の会社をどう合わせていくかがとても大事な経営課題になってきます。給料や就業時間などこれまでの古き労働条件を一から考え直すことが絶対に必要です。さらに、働く人の能力を生かした採用や用い方をうまく考えないと、生産性の向上どころかヒトの居つかない会社になって事業の継続すら危なくなることでしょう。

 そこで「健康経営」です。それぞれの会社の「健康経営」です。中小企業の経営者は株主に遠慮する必要がありませんから、働く人に対して十分に心とおカネを使うことができます。大きく利益を出して税金を払う前に自社で働いてくれる人に十分なことをするのが、中小企業の社長さんのノブレスオブリージュです。社長さんにできることは、まず、本当の意味での福利厚生の費用を使うことです。ちょうどいいことに、今はコロナの中で忘年会も社員旅行もできません。社員の皆さんにとって、本当に実になることは何かということをじっくり考えてみましょう。

 その時にヒントになるのは「健康保険制度の壁」です。この国は1961年から「国民皆保険」の国です。とてもいいことだとは思うのですが、経営者も社員もみんながこの保険に甘んじているのはむしろ不幸な面もあると思うのです。中小企業の社長さんは、社員の健康を健康保険だけに任せるのではなく、健康保険ではまかなえない健康を会社が提供するという決断をすることです。これこそが「中小企業の健康経営」だと思うのです。

 健康保険でまかなえるのは、おおざっぱにいうと「病気」に対してだけです。これでは、健康保険ではなく病気保険ですね。病気になってからでは遅いのです。「未病」に対する意識を持ち、健康に福利厚生費をかけることを考えることが大事です。健康保険だけにたよる経営はやめましょう。健康な社員の健康診断の結果をちゃんと見る経営者になりましょう。保険が出ないことに社員さんはお金をかけません。健康保険の対象にならない健康に対する費用は社長さんがもつと決断することです。世の中のマインドの変化は、会社のコストの考え方をも変化させようとしています。

文章 杉岡 茂

写真 伊丸 綾