先生

 

  

  我々「士業」(弁護士や税理士や社労士など)は優秀であろうがそうでなかろうが、世間の人から「先生」と呼ばれます。ぼくは若いころ、この「先生」に耐えられずに、いちいち「ぼくは先生と言われるほどのもんじゃありませんから、名前で呼ぶことにしませんか。」ってなことを言ってみたりもしました。が、ある日ある人に、「そんなことにこだわるからダメなんよ。『こだわるな』にこだわってると病気になるよ。『先生と言われるほどのばかじゃなし』ってのもあるしね。」と優しく教えてもらいました。これは効きましたね、一撃で沈むというのはこのことです。

 それ以来ぼくは「先生」をニックネームだと思うことにしました。あだ名だと考えると、お客さんである社長さんたちとの距離もぐっと近くなりましたし、反面責任感が増したような気がしました。社長さんに寄り添えるような気がして、自分の将来が決まったように思えました。この経験から学んだこと二つ。

 一つは、ぼくたちは必ずしも正解を求められているのではないし、正解など提供できるわけがないということ。そりゃやっぱりその事業においては社長さんの方が知識も経験も豊富であって、ぼくたち士業は社長さんの足下にも及ばないのです。しかし、一緒に考えることと、考えるヒントを提供することはできる!それが社長さんに寄り添うということではないか。こう考えられるようになりました。世の社長さんは一人の例外もなく孤独です。そんな社長さんに寄り添うということで十分ぼくたちの存在価値はある。そしてその存在意義を全うするために日々研鑽しなければならない。これがぼくらの使命です。

 二つ目は、ぼくらは資格で守られていて、多くの士業がその資格の及ぶ範囲で仕事をすればいいと考えていますが、そんなことでは受け身にならざるを得ないし、無責任と思われても仕方ないし、社長さんの信用を得ることはできません。とくに、弁護士はその資格を取れば税理士、社労士、司法書士、行政書士などの資格がついてきます。できるにもかかわらずしないのは怠慢でしょう。めんどくさいことを背負い込まなくても弁護士業務だけで食えるからですかね。

 本来地方の中小企業経営者にとっては、弁護士という存在はとても頼りになる存在であるはずです。中小企業経営の一番の課題である事業承継の場面でも、遺言や遺産分割は弁護士、相続税は税理士という風に別々に相談するより、弁護士にワンストップで相談できればいいですよね。窓口は税理士でも税理士に法的な知識があれば足りるような場面も多々あると思います。

文章:杉岡 茂

写真:伊丸 綾