東洋思想

 一口に東洋思想と言っても、とても広くって一人でカバーできるようなものではありません。インドや東南アジアにも古い思想や哲学がありましたが、ここでは中国を代表として考えてみます。中国の思想や哲学は他を圧倒する完成度だと思われますが、その中でも我が国に大きな影響を与えたのは孟子だと思います。今の世の基礎はほぼ明治維新に出来上がったと思われますが、幕末から明治維新にかけて、その時代を生きた人たちに影響を与えたのは、なんと言っても孟子でしょう。

 中国思想史の中で最も有名なのは孔子かもしれません。明治の資本主義を切り開いた渋沢栄一は「論語と算盤」という著作があるように孔子を座右に置いていたようです。この孔子は「仁」を大事にしますが、一方の孟子は「義」を説きます。いずれも儒教の徳目である五常「仁・義・礼・智・信」の一つですが、「仁」と「義」の両者には大きな違いがあります。

仁・義・礼・智・信を一言で言い表すのはとても難しいことですが、あえてトライすると

仁 思いやり

義 無私

礼 譲

智 考える

信 言葉

ということでしょうか。

 それぞれ詳しいコメントが必要なのですが、ここでは「義」について少し考えてみましょう。上には「無私」と書きましたが、自分を勘定に入れないとか、損得勘定で考えないことと言ったほうがわかりやすいかもしれません。「あの人損な生き方するよな」とか「あいつバカなことするよな」って感覚です。そうでありながら、なんかリスペクトの感情がわいてくるっていうのありますよね。「俺にはできないけど」で終わるあの感覚…

 幕末から明治維新にかけて「あいつバカだよな」って人がたくさんいたんでしょうね。今は「論語」は学校でも教えますが、「孟子」という本は読んだ人はごく少数でしょう。でも、年末のテレビに必ず忠臣蔵が登場するところを見ると、現代のわれわれ日本人もやっぱり「義」の感覚を忘れてないようですね。

文章 杉岡 茂