社長道入門



 中小企業の社長さんは、世間的から見るといろんな意味で風変わりな存在です。最も風変わりに見えることは、とてもわがままに見えるということです。これはつまり、現代のこの国の中では最も自立した存在だということの裏返しでしょう。つまり、自分で決めて自分で考えて、やった結果に対しては必ず自分で責任を取ることのできる存在は、中小企業の社長さんだけですね。一方、この人たちはとっても自由で自分の思い通りになることも多いので、「ノブレスオブリージュ」がないと生きていってはいけない人たちでしょうね。

 社長という存在にいちばん必要な素養は、「覚悟」だと思います。これがノブレスオブリージュの正体だと言ってもいいと思います。じゃあ何の覚悟か。それは、他人の責任を自分がかぶる覚悟でしょう。そして、自分の成果を他人に与える覚悟でしょう。つまり、「無私の精神」でしょう。もっとも、あんまりこういうことを口にする人間は、ぼくも含めて信じられないというのも真実です。何にせよ、リーダーたる者の心得としては、「最も仕えるものが最も支配する」というのがいちばんわかりやすいかも… 

 リーダーの使命は何か。ちなみに「使命」というのは、文字どおり「命」を何に「使う」かということです。どんな社長さんでもこれはしなきゃいけないし、社長さんでなくともリーダーという立場にある人の、しなければならない仕事とでもいいましょうか。それは「旗を立て続けること」です。目標をメンバーのみんなに示して、その目標に向かって動き続けることができるようにすること、そして、安心して今に集中できるようにすることです。

 希望を持つためには「今ここ」を精一杯生きなければなりません。希望は未来のことではなく、現在においてもつものであることを忘れると、悲惨なことが待っています。今を精一杯生きること、今できることを精一杯する、これが最も大きな希望の条件です。旗に向かって今ここを一所懸命に生きることが、幸せへの第一歩です。Even if I knew that tomorrow the world would go to pieces, I would still plant my apple tree. 「たとえ明日地球が滅びようとも、今日私はリンゴの木を植える」それまでの伝統的キリスト教の腐ったのを見て、マルティンルターは断固として宗教改革に立ち上がました。プロテスタントという新しい流れとともに歴史上に足跡を残しました。想像してください。当時絶対的な力をもった存在とまともに戦うことがどれだけ大変なことだったか… 権力だけでなく世間にも抵抗することの至難は、二宮尊徳の人生にも通じるものがあるかもしれません。

文章:杉岡 茂

写真:伊丸 綾