美容の業界事情




 高校の同級生でありオヤジバンドHELPのメンバーでもある僕の友だちに美容師をやっているのがいます。その彼が業界のお世話役になった関係で、美容業界にちょっと関わりができました。それまでは、月に二度髪を切りに行って、若くてかわいい女の子に、髪を洗ってもらってドライヤーで乾かしてもらうのが楽しみの単なるオヤジなお客さんにすぎなかったのですが… 友だちはみんな「月に二回も行って、どこ切るん?」と言いますが、切って2週間もすると、家族も友だちも誰も気づかぬ大変化が起こります。そう、寝ぐせに苦しみむのです。切る髪はわずかなのに料金は同じですが、わずかでも切ってグルーミングしてもらうとスッキリまた人生を歩いていけるのです。

 この業界のいいところは、何といっても、なくならない業界だということです、今のところ。生理的にいうと、人間、髪は絶対に伸びます。しかし、そのことよりも、今の人間にとっては、ヘアスタイルは個性の重要な一部なのです。ヘアに囲まれた顔、顔を中心としたファッションは、今やコミュニケーションの大事なツールです。言葉のない太古の人類は、顔の表情を使って巧みに、感情や情報を伝えてきました。リモート会議などでも、顔が映っている方が安心して話を進めることができます。言葉の嘘より顔の嘘の方が高等な技術なんだと、何かの映画で有名なスパイに教えてもらったような気がします。トムクルーズだったかな…

 「若い人に人気のない業界は衰退する」という世の常識とどう戦うか。これがこの業界の大きな課題でしょうね。ファッションというと、若い人のとくに若い女性の専売特許のようなイメージがありますが、この業界の大人たちもそのイメージに甘えすぎたんでしょうかね。もはや若い男女にとって、ファッションは作り出すものではなく受けるものになっているという時代の流れもあるかもしれませんね。

 美容師の試験に合格してしばらくはお客さんの髪の毛を切ることができないという慣行は、とりあえず何とかしないと… 先生と呼び合うことはやめないと… 改善点は挙げればキリがありませんが、これはどの業界でも同じことです。しかし、この業界は、ぼくが知る限り一番取り残された業界のように見えます。時代の流れが止まってしまっています。ファッションという言葉の語源は、「流儀」とか「流行」を意味します。流行に敏感な業界だけに、時代に取り残された感が強いのかもしれません。この業界に、何とかファッションを取り戻してもらいたいですね。

文章:杉岡 茂

写真:伊丸 綾