クエンティン・クリスプ(1908〜1999)という人がいます。この人もフレディと同じ英国人です。Stingという、これまた英国のミュージシャンの代表曲にEnglishman in NYという曲がありますが、この曲のモデルはクエンティンだと言われています。Englishman in NYのビデオクリップにも登場します。
クエンティンは、あるときは小説を書き、またあるときは映画や演劇に出演し、そうかと思えばデザイナーだったりと幅広い分野で活躍しますが、なんといっても、彼の個性は「女装するゲイ」に爆発します。英国ビクトリア時代の名残の残るお堅い時代に、上流階級の家庭に生まれた彼のトランスジェンダーはタブーであり、あざけりと侮蔑を受けながら生活したようです。彼はボヘミアンでありエイリアンだったのです。
しかし、彼の個性はそんな社会をものともせず、自分の人生を生きることを信じました。そんな彼の人生のきらめきは、彼の晩年同じ英国人Stingの手により、ついに名曲Englishman in NYになったのです。そのきらめきをフレディ・マーキュリーも見たのです。どこにも書いてはありませんが、ぼくはフレディはクエンティンにあこがれたのではないかと思います。
フレディは、クエンティンの生きざまをかっこいいと思ったに違いない。クエンティンの語り口や仕草の上品さと華やかさ、礼節と謙虚、そして何よりも無知や無理解に対して微笑むことを忘れない知性と寛容、見ている側がくすっと笑ってしまうようなウイットやユーモアも忘れません。こういうところにフレディは、英国紳士のジェントルマン魂を感じたのではないか。
姿や形にまどわされない魂の交信を、フレディとクエンティンは大切にした。スティングはそれを見た。
雅は敵を討つ! 英国紳士は恐い…
投稿:杉岡 茂
写真:伊丸 綾