Freddie Mercury

バンドをやっていると、自分がどのミュージシャンが本当に好きかということが、だんだんわかってきます。つまり、私はボーカルなので歌を歌う訳ですが、下手なりにうまく歌える曲とそうでない曲があります。練習のときはうまくいっても、ライブ当日は違います。当日うまく歌える曲は、本当に好きな人の歌であるような気がします。好きな曲じゃなくて、好きな人の曲です。他のメンバーのオーダーでやる曲で、そのミュージシャンのことをよく知らない場合は、「ああいい曲だな」と思いながら、練習のときに気持ち良く歌えても、本番はダメですね。ひっかかりがなく、ツルっと終わっちゃったなという感覚ですかね。ライブで歌うというのは、結構大変なことで、たとえて言えば、どんなに泥酔してても口をついて歌詞が出てくるようでないとダメで、つまり、頭が覚えてるのではなく、口が覚えてないとダメなんです。プロのシンガーがコンサートをするのは、とってもすごいことなんです。

 

僕の場合、QUEENの曲はうまくいきます。たとえ、乱れてもそれなりにうまくいきます。即座に自分でいいようにアレンジしてるんでしょうね。逆に、BOSTONの曲はうまくいきません。上手にできることはあっても、うまくいったなと思えないのです。誰かが文章を書いたり、音楽を作ったりするというのは、何かを伝えたいと思うからだと思うのです。それを僕が受け取って、その小説や歌が好きになるのです。つまり、少し大げさに言うと、作った人の精神、つまり思いを受け取るとでも言うのでしょうか。この精神の交換を、「思い入れ」といったりするんですかね。

 

QUEENのボーカルは、Freddie Mercury(フレディー・マーキュリー)といいますが、彼は1991年11月、45歳の若さでエイズで死にました。1946年9月、ペルシャ系インド人の両親から、当時イギリス領であったアフリカのタンザニア・ザンジバル島で生まれ、インドに渡り、そして最後はイギリスに落ち着いて、QUEENに参加します。ロックのイメージが壊れるのを恐れて、自身がインド出身であることを隠したがったようです。1970年ころにQUEENに参加するまでの少年期から青年期は、流浪(ボヘミアン)の人生のためか、つらい思いをたくさんしたようです。また、生来の多彩な才能をもち、大学はアートカレッジに通い、その後QUEENのアルバムジャケットを自分でデザインしたりしています。

 

好き好きはありますが、その優れた歌唱力と独特のマイクパフォーマンスで「世界最高のボーカリスト」の一人とされるFreddieですが、僕は、彼の悲しみにとりつかれてしまいました。20世紀最高のロックともいわれる「Bohemian Rhapsody」もさることながら、「Somebody To Love」という曲が最高です。きっと彼は、誰も知らないところで誰かに唾を吐きかけられたり、罵倒されたりしてきたのだろうと思います。そういう人生の悲しみを知った人にしか、あの歌詞は書けないんじゃないかと思います。

 

オカマの晩年は寂しいといいますが、彼は、ずっと寂しかったんだろうなと思います。ボヘミアンな生活をしていたからということもあるかもしれませんが、やっぱり生まれながらの天才だったのだろうと思います。当たり前のことですが、天才は天才にしか理解できません。天才の生んだ作品をほめたたえることはできても、天才その人を理解してほめたたえることは難しいことです。あなたの周りにも、誰にも理解されずに、ただ「変わり者」の烙印を押されてる人がいたら、その人、天才かもしれませんよ。