ユニット事業

 企業経営の世界で最近「オープンイノベーション」という言葉をよく聞きます。「無形資産」といっしょに言われることが多いですね。直訳すると「開放的な改革・革新」です。とくに目に見えない無形資産、技術、研究開発方法、アイデア、ノウハウとかデータ、知識などを自社だけでかかえ込まないでこれを社外に放り出すという戦略です。情報は自分から発信しないと手にすることはできません。自社の有する情報をまず誰かに使ってもらうことで進化させ、進化した情報を自社に戻して使うというようなイメージです。。そうすることで他社の誰かと組んで何か新しいことを始めようという考え方です。RYDEENでは「ユニット事業」と言って、他社の得意技と自社の得意技を結び合わせて新しい事業を創り出すことを試みています。

 自分以外の存在に自分の得意技を解放して、他者の得意技の力を借りるときに、誰と組むのがいいか。もちろん他の会社の力を借りること、同業種でも異業種でもいいですね。しかし、力を借りる相手は会社に限りません。近ごろは新しいことを創り出すのは「ヨソ者ワカ者バカ者」なんて言われます。素人つまりお客さんの目とか学生バイトの目とかクレーマーの目とか、いろんな人の力を借りることが考えられます。中でもお客さんの目は大事にしなきゃいけませんね。

 まずは「テーマ」が必要です。中小企業の場合は「地方経済」を前提にしていますので、地方経済の中でやれることでないといけません。都市経済を前提にするテーマを選択すると、まあ失敗しますね。たとえば「観光」というテーマを決めて、この会社とあの会社とその会社の得意技を結びつけると、何か新しいことができるだろうという直感からメンバーが集まります。「観光」って、交通手段、宿泊、食事、お土産なんかがあるよね。それに「流通」が結びつくと面白くなるよね。とくに南北の流通って日本にはないよね。どんどん得意技を持った仲間が増えていきます。

 次に、「共通言語」が必要です。複数の主体が集まる場合、大事なことは意思がよく通じることと誤解が少ないことです。たとえば、経営者なら誰でも使う「戦略」と「戦術」ということばも様々な意味で使われます。RYDEENでは、「戦略」は戦場の設定という意味に、「戦術」は武器の選定という意味に使うことを徹底します。ちょっと脱線しますが、日本の中小企業の社長さんたち、戦略はダメなようでもっと勉強すべきでしょう。が、戦術についてはチョー得意です。自社の強力な得意技に気づいてない会社も思う以上に多いように思います。他者との共同は、自社の強力な武器に気づくいい機会でもあります。

 最後に、「ゆるやかな結合」の形が必要です。それぞれが独立した存在の集合ですから、それぞれが存分に力を発揮しないと意味がありません。株式会社による共同経営では、株数によるパワーゲームですから、少数株主のメンバーが無責任になってユニット事業には適しません。現在の会社形態の中では合同会社がいいでしょう。合同会社においては、会社のルールは話し合いで決まります。独立したそれぞれの会社がそれぞれ力を出しやすい環境といえるでしょう。

 この「ゆるやかな結合」という哲学はユニット事業の根幹です。一つの集合体なんだけど、それぞれが独立してそれぞれが力を出さないと結合の意味がありません。ちょっとわかりづらいかもしれませんが、不格好な輪っかを作ったり結んだりするイメージですかね。端っこを作らないことが大事という循環の考え方です。昔から日本人は「情けは人のためならず」とか「金は天下の回りもの」とか言って、輪や和を大事にしてきました。日本の中小企業の時代がやってきました。

文章 杉岡 茂