株を譲るとき、譲渡所得とみなし配当で手取りはどれだけ変わるか
「うちの株を、会社に買い取ってもらえないか」。オーナー経営者からこういう相談を受けることがあります。株を持ち続けても配当も出ないし、相続のときに評価額でもめそうだから、いっそ現金化したい。理屈としては分かる話です。ただ、誰に売るかで税金のかかり方がまるで変わってくる、という点を知らないまま話を進めてしまう社長が少なくありません。
誰に売るかで、税金の種類が変わります
株を手放すとき、売り先は大きく二通りあります。ほかの株主や外部の会社に売る場合と、発行している会社自身に買い取ってもらう場合です。
第三者に売れば、話はシンプルです。売却益は譲渡所得として扱われます。株を売って儲けが出た、それだけのことです。
ところが、発行会社に買い取ってもらう「自己株式の取得」になると、事情が変わります。売却代金の一部が、税務上は「みなし配当」として扱われることがあるからです。
見た目は同じ「株を売って現金を受け取る」取引でも、中身がまったく別物になる。ここを知らずに話を進めると、想定していた手取りと、実際に振り込まれる金額がずれます。

譲渡所得と、みなし配当。何が違うのか
譲渡所得は分離課税です。株の売却益に対して、他の所得とは切り離した税率がかかります。税率はおおむね一定で、給与や事業所得がいくらあっても大きくは変わりません(税率の詳細は改正で動くことがあるので、必ず税理士に確認してください)。
一方のみなし配当は、総合課税です。給与所得や事業所得と合算されて、税率が決まります。所得が多い経営者ほど、税率が上がっていく仕組みです。
会社が自己株式として株を買い取る場合、支払った金額のうち、資本金等の額に対応する部分を超える分が、配当を受け取ったとみなされます。そのみなし配当部分に、総合課税がかかってきます。
同じ「株を売ったお金」なのに、扱いが二つに割れる。ここが今回、一番押さえておきたいところです。
同じ金額で売っても、手取りに差が出る理由
仮に、株を1億円で売るとします。あくまで話を分かりやすくするための、仮の数字です。
第三者に売れば、1億円から取得費を引いた譲渡益に、分離課税の税率がかかります。税率は所得の多さにあまり左右されません。
同じ1億円を会社から受け取る場合、資本金等の額を超える部分がみなし配当になります。もともとの所得が多い社長だと、その部分に高い税率が乗ってくる場合があります。
結果として、同じ金額を受け取っても、相手が第三者か自社かで、手取りに差が生まれることがあります。差がどのくらい出るかは、その人の他の所得や、株の取得費、資本金等の額によって変わってきます。試算してみないと、実際のところは分かりません。
相続した株を売るときは、特例が使えることも
相続で株を受け継いだ後継者が、その株を発行会社に買い取ってもらって現金化したい、という相談もよくあります。相続税を払うための資金を作りたい、という動機です。
相続が始まってから一定期間内に、相続で取得した株式を発行会社に売却した場合、みなし配当ではなく譲渡所得として扱う特例が使える場合があります。使えるかどうかで、税負担がかなり変わることがあるので、無視できません。
ただし、この特例には期限や要件が細かく決まっています。相続が発生した後は、動き出すタイミングを含めて、早めに専門家へ相談したほうがいい部分です。
「うちも当然使えるはずだ」と思い込んで進めるのは避けたいところです。実際に条件を満たしているか、税理士に確認してから動くことをおすすめします。
自社に置き換えると
自分の会社の株を売るとしたら、相手はどこになりそうでしょうか。ほかの株主や外部なのか、それとも会社自身に買い取ってもらうことになりそうか。ここではっきりしていないと、税金の計算自体が始まりません。
その株は、もともと自分で取得したものでしょうか。それとも相続で受け継いだものでしょうか。相続で受け継いだ株であれば、期間内の特例が使えないか、確認する価値があります。
自分には、給与や他の事業からの所得がどのくらいあるでしょうか。所得が多い人ほど、みなし配当が混ざったときの税率への影響が大きくなります。この点も、試算をする前に一度整理しておきたいところです。
株を会社に買い取ってもらう話は、思いついたその日に決めてしまえる話ではありません。譲渡所得だけで済むのか、みなし配当が混ざるのか、混ざるとしたらどのくらいの割合になるのか。ここを試算してから、初めて「得か損か」の判断ができます。数字を出す前に契約の話を進めてしまうと、後から「思っていた手取りと違う」ということになりかねません。まずは顧問税理士に、両方のパターンで試算してもらうところから始めてください。