自社株を現金に換える。役員退職金と組み合わせる考え方
引退を決めた社長から、株をどう現金にするかという相談をよく受けます。会社を誰かに売るわけではないので、株を後継者や会社そのものに買ってもらうか、役員退職金として受け取るか。この選び方だけで、最終的に手元に残るお金がかなり変わってきます。
株を売るか、退職金で受け取るか
自社株を会社や後継者に買ってもらうと、譲渡所得として税金がかかります。今の制度だと、譲渡益のおよそ2割が税金として持っていかれる、というのがだいたいの目安です。所得の額によらず一定の割合、という点が特徴です。
一方、役員退職金として受け取ると、退職所得という別の枠で計算されます。退職所得には控除の仕組みがあり、勤続年数が長いほど控除額が大きくなります。控除を引いた残りの一部だけが課税対象になる、という優遇が使える場合もあります。細かい条件は税理士に確認してください。
どちらが得かは、株の評価額や勤続年数、その年の他の所得によって変わります。「退職金のほうが得です」と一言で言えるものではなく、実際の数字を入れて税理士に計算してもらう必要があります。
相談に来た社長の会社は、配当をせずに利益をずっと社内に積んできたタイプでした。こういう会社は年々株価が上がりやすく、放っておくほど現金化のコストが上がっていく傾向があります。

退職金は勤続年数で変わる
退職所得の控除は、勤続年数が伸びるほど大きくなる仕組みです。仮に勤続年数が20年を超えると、それ以降の伸び方が変わる、という設計になっています。具体的な計算式は税理士に確認したほうが確実です。
ここで見落としやすいのが、「勤続年数」と「役員としての在任年数」は別ものだという点です。若いころから従業員として働き、その後役員になった人と、外から役員として入った人とでは、退職金の考え方が変わってきます。
役員退職金の適正額は、多くの場合「最終の月額報酬×役員在任年数×一定の倍率」で目安をつけます。ここで使うのは役員としての在任年数です。従業員時代を含めた勤続年数と混同すると、想定していた枠と実際に認められる範囲がずれてしまいます。
もう一つ気をつけたいのが月額報酬です。会長や社長の報酬が低いままだと、退職金の目安そのものが小さくなります。引退の何年か前から、報酬を実態に合わせて見直しておく準備が必要になる場合があります。
原資をどう作るか
退職金は、会社に現金がなければ払えません。当たり前のことですが、これを後回しにしたまま話が進んでしまう相談をよく見ます。
現金が潤沢な会社なら、内部の資金からそのまま払えます。ただ、多くの会社はそこまで余裕がなく、生命保険や金融機関からの借り入れを組み合わせて原資をつくることになります。
仮に純資産20億円の会社だとします。退職金を数億円単位で出すとなれば、それだけで資金繰りに響きます。事業に使うお金と、承継に使うお金は、同じ財布で考えないほうがいいです。
原資の作り方を間違えると、退職金を出した年の業績が落ち込んで見える、という副作用も出ます。銀行との関係や取引先への説明も含めて、事前に段取りを組んでおく必要があります。
買い取りと退職金、両方の枠を使う
退職金を出すと、会社の利益は一時的に減ります。株価の算定方法の一つに、利益や配当、純資産をもとに数字を出す方式があり、利益が下がれば株価も下がる場合があります。
株価が下がったタイミングで、会社や後継者が株を買い取れば、買い取りにかかるお金そのものも小さくなります。退職金の枠と、株の買い取りの枠を、順番と組み合わせで使う、という考え方です。
ただこれは、経済的な実態がある形で行う必要があります。実際に退職して、実際に経営から離れる。その事実がないまま税金の計算だけを動かすと、実態がないとみなされて、あとで否認されるリスクがあります。
提案書の見た目はきれいでも、「利益をゼロにする、配当もゼロにする」というだけで、経営の実態が何も変わっていないケースがあります。こういう提案は、後で見返されたときに弱いです。実態のある退職金のほうが筋がいい、というのが現場の実感です。
自社に置き換えると
自分の会社に置き換えて考えてみてください。自分が引退するとき、株を売るとしたら誰が買うのか、もう決まっていますか。
自分の勤続年数と、役員としての在任年数は、それぞれ何年になりますか。今の月額報酬は、将来の退職金の目安に見合っていますか。
退職金を出すとして、そのお金は会社のどこから出ますか。それを出したあと、会社の資金繰りは大丈夫だと言えますか。
株を現金にする方法は一つではありません。売る、贈与する、退職金で圧縮してから買い取ってもらう。どれを選ぶかで、手元に残る額も、税務上のリスクも変わってきます。使える制度は会社によって違いますし、使える場合とそうでない場合があります。まずは今の株価と退職金の目安がどれくらいになるか、税理士に一度計算してもらうところから始めてみてください。