夏至という頂点で、経営者は何を手放すか

ぼくは毎年、夏至が来るとちょっとだけ落ち着かない気持ちになります。一年でいちばん昼が長い日なのに、この日を境に夜が長くなっていく。頂点に立った瞬間から、もう次の流れが始まっている。この感覚、経営をやっている人ならわかってもらえる気がします。

陽の極みで、もう陰は始まっている

夏至は新暦で6月21日ごろ。北半球で一年中もっとも昼が長く、夜が短い日です。日本では梅雨のまっただ中で、農耕にとっては黄金期にあたります。ところがこの日を過ぎると気温はまだ上がり続けるのに、夜はじわじわ長くなり始める。陽気がいちばん盛んな時期であると同時に、陰気が芽生え始める時期でもある。そういう時節だそうです。だから養生としては、陽気が体の表面にある特徴に従って、その陽気を守ることを心がけるのがいいらしいのです。

これ、経営に置き換えるとけっこう怖い話だと思っています。売上や現場の勢いがピークにあるとき、たいてい人は「今年はいい」で終わらせてしまう。でも数字の裏側では、もう潮目が変わり始めていることが多い。ピークというのは、実は下り坂の一日目でもあるわけです。例えば、繁忙期の真っただ中で現場が「今年は例年以上だ」と盛り上がっているとします。だけど発注データや客層の中身を丁寧に見ると、実はリピート率が静かに落ちていた、ということがある。派手な数字に目を奪われている間に、地味な兆しは見過ごされやすいものです。

今、御社は本当にピークにいますか。それとも、もう気づかないうちに下り始めていますか。この問いを持てるかどうかが、次の半年を左右する気がしています。

型を持って体を整える

夏至の養生では、手の少陰心経という経絡を伸ばす所作をするそうです。小指の内側から肘の内側、脇を通って胸に入り、横隔膜を下って小腸にいたる経絡だとか。息を吸いながら両手の指を交差させて胸の前まで上げ、片足を一歩下げて体を後ろに引きながら座り、交差した手を返して前に押す。息を吐きながら足を戻し、両手を腰の横に戻す。これを左右交互に、自分のペースで繰り返す。正直、経絡の理屈は詳しくわかりません。でもこういう「決まった型」を毎年この時期に繰り返すこと自体に意味があると思っています。

忙しいときほど、自分がどういう状態かを見失います。型があると、それをやる瞬間だけは強制的に立ち止まれる。経営でいうなら、週次の数字チェックとか、月初の振り返りミーティングとか、そういう「決まってやる時間」がこれにあたるんだと思います。中身の完成度より、決まった間隔で必ずやる、というほうが効くことが多い。

苦いものを食べて、水はけをよくする

夏は五行でいうと「火」に属するそうです。夏至のころは苦みのある食べ物が真夏の暑さを発散させて、食欲を促してくれる。お茶も有効。小豆は心臓にいいらしく、体の中の水分代謝をよくしてくれるとのことです。

この「水はけ」という言葉、経営にもそのまま使えると思っています。資金繰りのことをよく「お金の流れ」と言いますが、あれは比喩じゃなくて実感に近い。数字が滞ると、会社は本当に淀んでくる。苦みのある食べ物というのも、耳の痛い報告や悪い数字のことだと思えば腑に落ちます。例えば、月次の数字にはっきり赤信号が出ているのに、忙しさを理由に見て見ぬふりをしているとします。それは苦い薬を飲むタイミングを、なんとなく先延ばしにしているのと同じ状態です。夏至のこの時期にあえて苦いものを口にするのは、暑さに流されず体を整えるためなんでしょう。悪い数字を早めに見るのも、たぶん同じ効能があります。

何かを手放す夏越しの作法

夏至は一年のうちで一番の頂点に達し、次の流れに乗り換える時期でもあります。神仏への感謝を表してみるのもいい、断捨離や夏越しの祓いのように何かを捨ててみるのも効果があるようです。呼吸法もいろいろあって、口で吸って鼻で吐くと「情熱」、鼻で吸って鼻で吐くと「愛」、鼻で吸って口で吐くと「浄化」、口で吸って口で吐くと「自由」が手に入るなんて言われているそうです。今日はどれで行こうか、と原文の筆者は問いかけていました。

頂点に立ったときに何かを手放すというのは、勇気がいります。うまくいっているものを止めるのは、うまくいっていないものを止めるより何倍も難しい。でもピークのときにこそ、次の半年で削るものを決めておくと、下り坂に入ってから慌てずに済む。夏越しの祓いというのは、そういう先回りの知恵だったのかもしれません。

夏至=折り返し点 陽(外に出ている勢い) 陰(内側で始まっている変化) ここで次の一手を仕込む

自社に置き換えると

今の御社は、まさにピークにいるのか、それとももう静かに下り坂へ入っているのか。数字だけでなく、現場の空気や客先の反応から見えてくるものがあると思います。ピークの陰でもう兆している変化に、経営者自身が目を向けられているか。忙しさにかまけて、決まった間隔で立ち止まる型を、自社は持てているか。この夏、思い切って手放すとしたら何を選ぶか。答えはひとつじゃなくていいので、一度紙に書き出してみてほしいと思います。

今日はどの呼吸で行くか、なんて聞かれても正直まだ決めきれていません。ただ、頂点に立った日は、次の一手を仕込む日でもある。そのことだけは、毎年この時期に思い出すようにしています。

中小企業の、味方でいたい

周南の9人の若者が、地元の中小企業の現場に入って一緒に考えます。若者・バカ者・よそ者の会社です。

RYDEENについて

・文 杉岡茂(初出:逍雲夜話 2023年6月「夏至 十/二十四節気」を再編集)


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