10年の経営計画をどう作るか。数字を並べる前にやること
「10年後を考えて経営計画を作ってください」。ある建設会社の相談に来た社長は、そう言われて困っていました。銀行から言われたのか、支援機関に勧められたのか。とにかく目の前にあるのは、白紙のエクセルシートだけです。何から手をつければいいのか分からない、という相談はよくあります。
いきなり売上を伸ばす絵を描かない
計画と聞くと、多くの社長はまず「来年は売上をいくらにするか」から考え始めます。気持ちは分かります。でも、それは順番が逆です。
過去の数字を見ないまま将来を描くと、絵に描いた餅になりがちです。今の会社がどんな状態にあるのか。そこを確認しないまま目標だけ立てても、根拠のない数字が並ぶだけになってしまいます。
相談に来た社長も、最初は「5年後に売上を倍にしたい」という話から入りました。でも決算書を一緒に見ていくと、まず直視すべき数字が別にあることが分かってきました。

過去の数字を4つの目で見る
会社の状態を見るとき、規模・収益性・安全性・効率性という4つの角度から数字を見ていきます。
規模は会社の大きさそのもの。収益性は利益をどれだけ出せているか。安全性は借金や資本の状態が危なくないか。効率性は持っている資産や人をどれだけ活かせているか、という見方です。
この4つを並べてみると、自社の弱いところがはっきりします。売上はそれなりにあるのに利益が出ていない会社。利益は出ているのに借金が重くて安全性が低い会社。会社によって、抱えている課題は違います。
相談に来た社長の会社も、収益性と安全性の両方に課題がありました。片方だけ直しても、もう片方が足を引っ張る状態です。だから4つの目で全体を見る必要がありました。
損益分岐点で守るべき最低ラインを決める
数字を見た後にやりたいのが、損益分岐点を出すことです。損益分岐点とは、赤字にも黒字にもならない売上のラインを指します。
たとえば年商3000万円の会社だとして、損益分岐点が2700万円だとします。この場合、売上が2700万円を割ると赤字になる、という最低ラインが見えてきます。
このラインが分かると、経営の余裕がどれくらいあるかも見えてきます。売上が少し落ちても耐えられるのか、それともぎりぎりの状態なのか。数字で確認できると、社長の実感とのズレに気づくこともあります。
損益分岐点は一度出したら終わりではありません。固定費が増えれば上がりますし、利益率が改善すれば下がります。計画の中で毎年見直していく数字です。
正常化は段階を分けて進める
課題がいくつも見つかると、社長はつい全部を一度に直そうとします。気持ちは分かりますが、これはうまくいかないことが多いです。
おすすめしているのは、段階を分けて順番に取り組む方法です。まず黒字化。次に借金や資本の状態を整える段階。その次に安全性を確保する段階、そして成長を目指す段階、というふうに進めていきます。
段階を分けると、今年やるべきことがはっきりします。黒字化がまだの会社が、いきなり大きな売上目標を掲げても、途中で息切れしてしまいます。
相談に来た社長の会社でも、この段階分けをしてから、社内の話し合いがぐっと具体的になりました。「今期は黒字にすることだけ考えよう」と、迷わず言えるようになったからです。
自社に置き換えると
自社の数字を、規模・収益性・安全性・効率性の4つで見たとき、どこが一番弱いでしょうか。今の売上が損益分岐点からどれくらい離れているか、把握できているでしょうか。そして、今すぐ直すべき課題と、後回しにしていい課題を、分けて考えられているでしょうか。
10年計画は、10年後を正確に当てるために作るものではありません。当たるはずもない数字です。それでも作る意味があるのは、来期に何をするかを決める材料になるからです。まずは過去の数字を4つの目で見るところから、始めてみてください。専門的な判断が必要な部分は、税理士や中小企業診断士に確認しながら進めるのが安心です。