忙しい時こそ、種をまく季節
芒種(ぼうしゅ)って読める人、意外と少ない。新暦の6月6日ごろにあたる二十四節気のひとつで、麦や稲みたいに穂の先にツンと突起がある植物の種をまく時期だそうです。民間では「忙種」とも呼ばれるらしい。ぼくはこの字面を見るたびに、経営者の日常とかぶって仕方ない。
忙しい時こそ、種をまく
芒種は農業生産と密接に関わる節気です。麦や稲の種をまいたり植えたりする、まさにそのタイミング。梅雨入りの頃合いでもあって、中国でも長江中下流域で梅雨の季節を迎えるそうです。この時期は遅寝早起きが良いとされ、忙しくても希望の種をまく時期だと言われている。
農業は待ってくれません。梅雨が本格化する前に種をまかないと、その年の収穫はゼロになる。経営にも似たところがあります。繁忙期のど真ん中こそ、後回しにしたくなる「次の種」があるはずです。採用、教育、新しいサービスの仕込み。目の前の仕事が山積みだと、こういうことは真っ先に後回しになる。
例えば、繁忙期のさなかに新人研修を先送りする会社があるとします。今は目の前の仕事で手一杯だから、来月落ち着いたらやろう、と。でも半年後、また別の忙しさの波が来る。結局、育成の種はまかれないまま、頼れる人はいつまでも増えない。芒種の教えは、忙しさを言い訳にするなということかもしれません。

今、目の前の忙しさに追われて、後回しにしている種まきはありませんか。
夜は寝る、昼は少し閉じる
芒種を過ぎると、一年のうちで陽気がだんだん伸びて、陰気が体の中に隠れていく時期に入るそうです。毎日決まった時間に眠り、昼寝をするのが効果的だとか。夜半にしっかり眠ることで陰を養い、正午に少し昼寝をすることで陽気を養い、血の巡りも良くなるらしい。
これ、経営者ほど軽視しがちな話だと思う。数字と睨めっこして夜更かしが続くと、頭の中がどんどん重くなる。判断力は、体調と直結してます。寝不足の頭では、いつもなら引っかかる違和感に気づけない。
例えば、決算前で連日徹夜になっている社長がいるとします。数字はどうにか合わせられても、大事な商談で一瞬の判断がずれる。後から振り返って「なんであんな条件で通したんだろう」となる。疲れた頭は、そういうミスを平気で通してしまう。
夜、ちゃんと寝てますか。昼に少しでも目を閉じる時間、取れてますか。
誰の目も気にせず、自由でいい季節
この季節は人間離れした自由さ、芸術や文化みたいな意味合いを持つらしい。周りを気にせず、自由気ままに過ごすのがいいとされてます。食べ物で言うと、きゅうりは夏の火照りを抑えてむくみにも効く。らっきょうは冷え性に効いて気分を落ち着かせる。蕎麦はイライラを解消して気分を落ち着かせる効果があるそうです。
自由に振る舞っていい、という話が経営に効くのはなぜか。型にはまった思考からは、新しいアイデアはなかなか出てこないからだと思う。前例や周りの目を気にしすぎると、無難な選択ばかりが残る。
例えば、社内会議でいつも同じ顔ぶれの意見だけが通って、誰も異を唱えない会社があるとします。空気を読むのが上手な人ばかり集まって、発想の余白がどんどん狭くなる。新商品も新しいサービスも、結局は前と似たようなものしか出てこない。
この一週間で、誰の目も気にせず自由に考えた時間、ありましたか。
自社に置き換えると
今の忙しさの中で、後回しにしている種まきは何でしょう。採用かもしれないし、値上げの相談かもしれないし、新しい仕事の仕込みかもしれません。夜の睡眠と昼の一呼吸、自分の会社の誰か、もしかして社長自身が一番後回しにしていないでしょうか。社内に、誰の目も気にせず自由にアイデアを言える空気は、まだ残っているでしょうか。忙しい時ほど、こういう問いは後回しになりがちです。
芒種は、忙しさの真っ只中に種をまく時期だと教えてくれます。ぼくらの仕事もきっと同じ。忙しいからこそ、種をまく手を止めないでいたいものです。
・文 杉岡茂(初出:逍雲夜話 2023年6月「芒種 九/二十四節気」を再編集)
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