「自分らしく生きていい」を本気で考えると、教育に行き着く
ウエルビーイングという言葉、最近よく聞きます。中身を一言でいうと「自分らしく生きていい」ということです。きれいな言葉ですが、これを会社の中でどう扱うかとなると、正直けっこう悩みます。人間関係のこと、マイノリティへのインクルージョンのこと、教育のこと。考えることは多いですが、ぼくは結局、一番大事なのは教育だと思っています。
一番大事なのは、やっぱり教育
人と人との関係も、マイノリティに関するインクルージョンという考え方も、これからの教育のあり方にかかっていると思います。教育というのは人を育てることを言います。学校で子どもに勉強を教えることだけじゃありません。
この国では、教育というと学校教育のことだと思い込んでいる人が多い気がします。でも本来はそうじゃないはずです。みんなが面倒くさがって、子弟の教育を学校に押しつけてしまった。これ、会社にもそのまま当てはまる話だと思うんです。

新人が入ってきたとき、「教育は研修担当の仕事」「現場のOJTでどうにかなる」と、誰かに丸投げしていないでしょうか。育てるというのは、本当は組織にいる全員の仕事のはずです。
人数が増えると、教育は雑になる
本当は、人それぞれに対する教育、その時その時に合わせた教育を考えなければいけません。でも我が国は人口が爆発的に増えたせいで、集団教育になってしまいました。一人ひとり見る余裕がなくなったということです。
例えば、10人でやっていた会社が急に50人になったとします。最初の10人には社長が直接、仕事の考え方を伝えていたはずです。でも50人になると、そんな時間は取れません。マニュアルを作って、研修を組んで、画一的に教えるしかなくなる。効率としては仕方ないのですが、そこで失われるものも確かにあります。
だからこそ、多様性とか流動性を容認する感覚、平たくいえば「みんな違っていい」という感覚、いろんな観点から物ごとを見る感覚を、意識して大事にしていく必要があるんだと思います。放っておくと、組織はどうしても均一な方向に流れていきます。
敵も味方も、天は区別しない
マイノリティとかインクルージョンとかを考えるとき、他人事として片づけないことが大事です。回り回って、自分に帰ってくると思うこと。二宮尊徳は百年以上前からこれを言っています。「一円融合」です。敵と思っているものも味方と思っているものも、天はなんら区別しない。
敵が自分のためになっている、ということもよくあります。人はそれを認めたがらないだけです。例えば、うるさいことばかり言ってくる取引先や、クレームの多い顧客がいたとします。厄介な相手だと思っていても、その指摘のおかげで商品の欠陥に早く気づけた、なんてことは実際にあるはずです。
ぼくもこうやって偉そうに言っていますが、なかなかできたためしがありません。敵は敵だと、すぐ思ってしまう。残念ながら、これは正直な告白です。
教育を「コスト」で終わらせない
もう一つ大事なのは、経済格差をどう考えるか、とくに国による格差をどう考えるかです。教育に対する投資は効果が見えません。見えるとしても時間がかかります。だから「投資」ではなく「コスト」としてしか扱われないことが多いようです。
会社の中でも同じことが起きています。業績が悪くなると、真っ先に削られるのが研修費や教育費です。目に見えるリターンがすぐ出ないから、削っても痛みが分かりにくい。でも、それを何年も繰り返した会社が、どうなっているか。
これに対しては、たとえリターンが金銭でなくてもいいと思えるようになること、いつまでも成長を続けるという経済感覚をいったん手放して、脱成長の方向にシフトすることなど、「現代人の断捨離」のようなものが必要なんだと思います。
自社に置き換えると
新人教育やOJTを、気づけば誰かに丸投げしていないでしょうか。育てるのは全員の仕事のはずが、いつのまにか担当者任せになっていることがあります。
社内で「みんな違っていい」という感覚は、実際どこまで許されているでしょうか。効率を優先するあまり、意見の違う人を面倒だと片づけていないか、一度振り返ってみる価値はあります。
研修費や教育費は、業績が落ちたとき真っ先に削る対象になっていないでしょうか。それは本当にコストなのか、それとも時間がかかるだけの投資なのか。この問いは、意外と答えが出しにくいものです。
自分らしく生きていい。言葉にすると簡単ですが、それを支えているのは結局、地味な教育の積み重ねなんだと思います。敵だと思っていた相手が実は自分の役に立っていた、という話も含めて。断捨離すべきものは、案外、会社の中にもたくさん転がっている気がしています。
文・杉岡茂(初出:逍雲夜話 2023年11月「ウエルビーイング〜part2」を再編集)
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