立冬に、経営者こそ休む練習をする
新暦でいうと、11月7日くらい。二十四節気でいう「立冬」です。「立」は始まりという字なので、暦の上ではここから冬なんですが、実際の日本はまだ秋のまっただ中だったりします。最近は気候変動のせいで、秋も春もほとんど無くなってきている気がして、これは呑気に季節の話をしている場合じゃないのかもしれません。それでも暦は律儀に「そろそろ休む季節ですよ」と教えてくれます。
立冬は「休みなさい」の合図
冬は老化と関係の深い季節だそうです。老化を防ぐ方法はいろいろありますが、いちばんは陰を養うこと。つまり、ゆっくり休むことです。疲れを感じたその瞬間にちょっと休憩する。昼寝もいい。年配の方がお昼寝しているところ、よく見かけますよね。あれは怠けてるんじゃなくて、体の使い方を知っているからなんだと思います。
経営者はここが苦手です。忙しくしていることが頑張っている証拠だと思い込んでいて、休むと後ろめたい。でも東洋医学の理屈でいくと、休むこと自体が体を立て直すための能動的な作業です。何もしていないように見えて、実は次の動きのために力を溜めている。ぼくはこの理屈、経営にもそのまま当てはまると思っています。
年末に向けて数字を詰める時期ほど、経営者本人が先に消耗します。疲れを感じてから休むのでは遅い。感じた瞬間に手を止める。それくらいの構えでちょうどいいんじゃないかと、この季節になるたび思い直します。

弱いところから、先に温める
この季節は首回りや手首、足首に注意が必要だそうです。特に足のくるぶし近くにある「三陰交」というツボを温めるのが手軽でいいと言われています。全身を一気にどうにかしようとせず、冷えやすい弱点から手を打つ。これ、経営の順番の付け方とよく似ています。
例えば、毎年11月あたりから資金繰りが苦しくなる月がだいたい決まっている会社があるとします。その月になってから慌てて銀行に相談するのと、秋のうちから枠を確保しておくのとでは、同じ苦しさでも体感がまるで違います。弱いところは、だいたい毎年同じ場所です。そこを先に温めておく。難しいことじゃないんですが、忙しいとつい後回しにしてしまいます。
自分の会社の「くるぶし」がどこなのか、今の時期に一度棚卸ししておくだけで、冬の乗り越え方がだいぶ変わると思います。
元気に見えて、実は冷えている
実りの秋といえばレンコンですが、これは寒性の食べ物で、冷え性の人にはあまり向かないそうです。ただ現代人は夜更かしと冷たいものの食べ過ぎで「陰虚」の人が多い。体の芯は冷えているのに、外側だけほてっている状態です。この陰虚を取るのにレンコンが最高だと言われています。一方でぶどうは平性なので、暑がりでも寒がりでも誰にでも合う。
会社にも陰虚みたいな状態があるなと思います。表向きは忙しそうで景気よく見えるのに、現場は疲れ切っている。数字は伸びているのに、社員の顔色がよくない。外はほてっていて、中は冷えている状態です。こういうときに景気のいい言葉をさらに重ねても、たぶん効きません。むしろ芯を温める、レンコンみたいな地味な対処のほうが効くんだと思います。
逆に、誰にでも合うぶどうのような対応、つまり立場や体質を選ばない基本の丁寧さも、忘れちゃいけないところです。
溜め込む時期に、使い切ろうとしない
立冬は秋の終わりであり冬の始まり。「陽退陰生」といって、あらゆるものが休養と収蔵の時期に入るとされています。北風が吹き始めるので、頭や足先、背中の保温にも気を配る季節です。「立冬に冬を補う」という風習があって、温かいものを食べることで冷えを防ぐそうです。陽気を守り、寒さに陽を傷つけさせない。これがこの時期の養生の要だと言われています。
昔の人はこの時期、体をねじって滞りを流す運動まで用意していたそうです。それくらい、この時期の「巡りの悪さ」を気にしていたということだと思います。
経営でいうと、今期の力を使い切らず、来期に回す分をきちんと残しておく発想に近い気がします。売上を伸ばすことだけが仕事じゃなくて、次の動き出しのために何を蓄えておくか。冬に使い切ってしまうと、春に動く力が残っていません。
自社に置き換えると
今の忙しさを、頑張っている証拠だと勘違いしていないか。一度立ち止まって考えてみてほしいところです。毎年決まって弱くなる時期や部門があるなら、それが自社の「くるぶし」です。今から手を打てているでしょうか。数字だけ見ていると景気よく見えて、現場の顔色までは見えていないかもしれません。今期の力を使い切ってしまって、来期の立ち上がりが遅れる、なんてことになっていないでしょうか。
暦はただの目安ですが、年に一度くらい「そろそろ休んでいいですよ」と誰かに言われる日があるのは、悪くないなと思います。立冬はそういう日です。頑張るのは得意な経営者が多いので、休む練習のほうを、たまにはしてみてください。
・文 杉岡茂(初出:逍雲夜話 2023年11月「立冬 十九 / 二十四節気」を再編集)