タイのリングサイド価格が教えてくれた、アジアで商売する怖さと面白さ

去年の暮れと今年の2月、続けてタイに行ってきました。3月からはワクチンを打っていなくても、ほとんどの国に入れるようになるそうです。ただ呑気に観光してきたわけじゃありません。日本の中小企業にとって海外がどれだけ大事になっていくか、その現場を自分の目で確かめてきたつもりです。

減っていく国で商売を続ける怖さ

日本の人口は減り続けています。これは誰でも知っている話です。でも中小企業の経営者としてこの数字と向き合うと、じわっと怖くなります。お客さんの数が減るということは、同じ商圏で同じ商売を続けているだけで、売上が自然に目減りしていくということだからです。

人口が減る市場では、パイの奪い合いがどんどん激しくなります。値下げ競争が起きやすくなるし、後継者を探すのも一苦労になる。逆に人口が増えている国では、放っておいてもマーケットが広がっていく。この差は、じわじわ効いてくるボディブローみたいなものだと思っています。

ぼくが海外、とくにアジアに目を向けたほうがいいと言いたいのは、根性論でもロマンでもありません。単純に、人が増えている場所で商売をしたほうが楽だからです。

「アジアの時代」の中身が変わった

世界の目がアジアに向いているという流れは、ここ何年もずっと変わっていません。「アジアの時代」というやつです。ただ、その中身は静かに変わってきています。中国・韓国・台湾のエリアから、ASEANのエリアへ。主役が移り変わっているんです。

今は中国が話題の中心にいます。ニュースを見ても投資の話を聞いても、どうしても中国の話が多い。でも人口構成とこれからの推移を考えると、今のうちにASEANへリーチしておくことがすごく大事だと、ぼくは思っています。

例えば、ある町工場が新しい取引先を探すとします。すでに競合がひしめいているエリアに後から入るのと、まだ日本企業がそれほど多く入っていないエリアに早めに入るのと、どちらが交渉しやすいでしょうか。答えは考えるまでもありません。今はまだ、ASEANはそういう場所です。

タイが日本人と組みやすい理由

ASEANの中でも、日本の中小企業にとって中心になるのはタイだろうと思っています。とてもアジア的で、なおかつ日本人が一番組みやすい国です。政治的にも、宗教的にも。

なぜかと考えてみると、アジアの中で西欧の植民地にならなかった国は日本とタイくらいしかない、というのが大きい気がします。それと、稲作の国であること。米を作って生きてきた者同士、どこか通じるものがあるんだと思います。性格が温和なのも、日本人にはありがたいところです。

制度や言葉の壁はもちろんあります。でも「一緒にやっていけそうか」という感覚のハードルは、他のアジアの国に比べるとかなり低い。これは実際に何度も足を運んでみないと、なかなか実感できない部分だと思います。

リングサイドの値段が教えてくれたこと

去年から今年にかけて、そのタイが大きく変わったのを目の当たりにしてきました。コロナ前とコロナ後を比べると、日本もだいぶ変わったなと思っていたんですが、そんなものじゃありません。

一つだけ例をあげます。タイのキックボクシング、ムエタイです。リングサイドの席、コロナ前は2000バーツでした。今年見たら3300バーツになっていました。日本円にすると、コロナ前が6000円、コロナ後が14000円です。

ムエタイ リングサイド観戦料の変化 コロナ前 2,000バーツ (約6,000円) コロナ後(2023年) 3,300バーツ (約14,000円) 値上がり+円安で日本人は2倍貧乏に

値上がりと円安が重なって、日本人は2倍貧乏になってしまいました。悔しいけど、これが現実です。向こうの物価が上がっているのは経済が元気に回っている証拠でもあって、素直に羨ましい気持ちと、置いていかれる焦りが両方あります。

自社に置き換えると

ここまで読んで、自分の会社に置き換えて考えてみてほしいことがいくつかあります。自社の商圏は、これから人が増える場所にありますか。それとも減っていく場所だけで完結していますか。海外という言葉を、まだ大企業だけの話だと思っていませんか。そして、もし今からアジアに一歩踏み出すとしたら、その相手はどこの国が自社の性格に合っていそうでしょうか。

答えはすぐに出なくていいと思います。ただ、この問いを一度も考えたことがない会社と、考えたことがある会社とでは、5年後10年後の景色がまったく違ってくるはずです。

ぼくは別に、みんな海外に出ろと言いたいわけじゃありません。ただ、リングサイドの値段が2倍になっているのを目の前で見て、日本だけを見ていたら気づけないスピードで世界は動いているんだと、思い知らされました。次にタイに行くとき、この値段はいくらになっているのか。ちょっと怖いような、楽しみなような気持ちで見ています。

・文 杉岡茂

中小企業の、味方でいたい

周南の9人の若者が、地元の中小企業の現場に入って一緒に考えます。若者・バカ者・よそ者の会社です。

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(初出:逍雲夜話 2023年3月「タイ」を再編集)


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