時よ、飛んで行くことなかれ 還暦と初孫で気づいた老いの正体

去年、還暦を迎えました。その前の日に初孫が生まれましてね。めでたい話のはずなんですが、同時に妙な焦りも感じています。老け込まないように気をつけなきゃ、と思うようになったんです。健康とか認知症対策とか気になることは色々ありますが、今いちばん気になっているのは、時間の進み方そのものです。

「あれ、本当だったんだ」と気づいた日

「60歳過ぎたら早いよ」「65歳が境で、坂を転げ落ちるように時間が過ぎるよ」。そういう先輩たちの言葉を、これまで何度も聞いてきました。正直、話半分で聞いていたところがあります。社交辞令というか、年寄りの決まり文句というか。

でも実際に還暦を過ぎてみると、嗚呼、あれ本当だったんだ、と膝を打ちました。眠りが浅くなるとか、腰が痛いとか、体の不調はいろいろ出てきます。でもそれ以上に、時間が早く過ぎていくこと自体が、人を老いさせる一番の毒なんじゃないかと、このごろよく思います。

還暦の前の日に、初孫が生まれました。めでたい話です。でも同時に、自分がおじいちゃんと呼ばれる側になったんだという事実が、ずしんと効きました。老け込まないように気をつけなきゃ、と思うようになったのは、このときからです。

時間が早く感じるのは、老いの一番の毒かもしれない

なぜ時間が早く感じるようになるのか、自分なりに考えてみました。たぶん理由は単純で、「初めて」が減るからだと思います。子どもの一年が長く感じるのは、毎日が初体験だらけだからです。大人になると、見るもの聞くものの大半が「知ってること」になる。新しい刺激が減ると、時間を測る手がかりも減って、気づいたら一年経ってた、ということになるんだと思います。

これ、経営にも通じる話だと思うんです。新しいことに挑戦し続けている会社ほど、一年が長く、濃く感じられるはずです。逆に、同じ商売を同じやり方で回しているだけの会社は、気づけば五年、十年があっという間に過ぎていて、周りに置いていかれている。

時間の速さを言い訳にする前に、新しいことをやっているかどうか、そこを疑ったほうがいいのかもしれません。今年、去年と同じ一年を、もう一度繰り返していないか。そう考えると、ちょっと背筋が伸びます。

晩ごはんと本の選び方が変わった

最近、生活がちょっと変わってきました。「あと何回、晩ごはんを食べられるんだろう」と考えると、気に入ったものしか食べたくなくなる。本屋で本を選ぶときも、前よりずっと慎重になりました。これだけ買い込んで、死ぬまでに読み切れるんだろうか、と立ち止まって考えてしまうんです。

例えば、残りの持ち時間がはっきり見えている人と、まだ無限にあると思い込んでいる人とでは、一日の使い方がまるで違うはずです。会社の経営で言えば、残り三年で退任を決めている社長と、あと二十年はやるつもりの社長とでは、同じ案件でも判断の重さが変わってきます。

自分の時間の残りをどう見積もっているか。それが、日々の小さな選び方ににじみ出るんだと思います。晩ごはんの一品を選ぶのも、本を一冊選ぶのも、根っこは同じです。

若い頃とはあきらかに生活のリズムが変わってきました。無駄なものに付き合う余裕が、いい意味でなくなってきたんです。

「慎独の幸せ」というひとりの時間

自分一人の時間を、前よりずっと大事にするようになった気がします。もちろん孫と遊ぶ時間も楽しいですよ。でも、一人で自分の頭の中の「精神の宮殿」で自在に遊ぶのは、何にもまして幸せです。これを僕は「慎独の幸せ」と呼んでいます。

「慎独」というのは、ひとりを慎むと書きます。慎むという字は、大事にするという意味です。ひとりの時間と空間を大事にすることを、慎独と言うんですね。この慎独があって初めて、他人との関わりもうまくいくんだと思っています。

具体的に何をしているかというと、古典を読んでいることが多いです。最近はNetflixで海外ドラマを見ることも増えました。知らないことを知る。知っていることを、もう一度じっくり考え直す。古典の著者がすぐそばにいて、気軽に会話を楽しんでいる、そんな感覚です。今日家に帰ったら、吉田松陰と日本の将来について語り合うつもりです。

自社に置き換えると

この一年の自分の仕事を振り返って、新しいことにどれだけ挑戦したか、思い出してみてください。去年と同じことを同じやり方で繰り返しているだけだとしたら、時間が早く過ぎるのも当然かもしれません。自分の会社は、この一年で何か初めてのことをやったでしょうか。

それから、自分の残り時間をどれくらいに見積もっているか、一度棚卸ししてみるのもいいと思います。あと何年この会社を率いるつもりなのか。その年数によって、今年やるべき判断の重さは変わってくるはずです。

そして、誰にも邪魔されないひとりの時間を、この一週間で何時間持てたか、数えてみてください。社員と話す時間、取引先と会う時間は大事です。でも自分の頭の中で自由に考える時間がなければ、判断そのものが鈍っていくんじゃないかと思います。

時よ、飛んで行くことなかれ。切なる願いです。でも時間を引き止めることはできません。できるのは、一年の中身を濃くすることだけです。還暦を過ぎてようやく、そのことがわかってきた気がします。

中小企業の、味方でいたい

周南の9人の若者が、地元の中小企業の現場に入って一緒に考えます。若者・バカ者・よそ者の会社です。

RYDEENについて

・文 杉岡茂(初出:逍雲夜話 2022年6月「Time, Don’t fly away!」を再編集)


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