経験なき秀才が率いた組織は、なぜ負けたのか

太平洋戦争のあとに「失敗の本質」という本が生まれました。なぜ日本は負けたのか、を真剣に考えた人たちがいたんです。中小企業の経営者にとっても、成功した人の話より、負けた人の話のほうがよっぽど勉強になると、ぼくは思っています。

失敗を語れる人のほうが、信用できる

最近は「しくじり先生」みたいな番組も人気です。成功者の武勇伝よりも、こけた人の話のほうがおもしろい。これって当然だと思うんです。成功には運も混ざっています。でも失敗には、だいたい理由がある。

経営をやっていると、うまくいった理由をちゃんと説明できる社長は意外と少ないんです。でも潰れかけた理由を聞くと、みんなすごく具体的に話してくれる。苦い経験ほど、頭にこびりついて離れないんでしょうね。

太平洋戦争の敗因もひとつに絞れるものではないですが、ぼくがずっと引っかかっている話をひとつ紹介します。

刀と帆船で始まった幕末、気づいたら世界の一等国

ペリーが来航したのが1853年。そこから日本は幕末という名の内乱に突入します。実質は国内戦争です。でも武器は刀と粗末な大砲。ペリーの蒸気船に対して、幕府の船は帆船ですよ、帆船。関取を海岸に並べて守ろうとしたなんて話まで残っているくらいです。

黒船に心底びびった日本は、外国に飲み込まれる前に明治維新という革命を自力でやってしまいます。そこから30年も経たないうちに、日清戦争でアジア最強だった清の北洋艦隊を破る。その10年後には、世界最強と言われたロシアのバルチック艦隊にまで完勝してしまう。

なぜこんなことができたのか。日露戦争までの軍人は、幕末の内乱で実際に命をやり取りした人たちだったからだと思うんです。本物の修羅場をくぐった人の迫力は、やっぱり違う。机の上で覚えた戦術じゃないんですよね。

秀才が艦隊を率いた昭和、理屈が現場を潰した

ところが1930年代、暴走を始めた日本軍には、幕末の実戦を経験した世代はもうほとんど残っていませんでした。かわりに幹部を占めたのは、学校で優秀だった秀才たち。日清日露の連勝と、その後の経済発展で、国全体がちょっと慢心していた時期でもあります。

頭のいい秀才が頭で戦争を組み立てる。でも実戦で鍛えられていない人間が、本番の戦争に勝てるかどうかは別問題でした。結果は手痛い敗戦、どん底です。

古典は昔から「理屈より経験」と繰り返し言っています。それなのに、いまの世の中はやたら理屈を重んじる。資格やフレームワークや分析はもちろん大事です。でも現場で痛い目に遭ったことのない人が、理屈だけで現場を動かそうとする構図、これ昭和初期とほとんど同じに見えて、ちょっと怖いなと思うんです。

勝って慢心、負けてまた這い上がる 実戦で鍛えられる 世代が力を持つ 連勝して 勢いに乗る 慢心から 理屈だけの秀才に交代 手痛い失敗 また繰り返す?

強くなったあとにこそ、同じ落とし穴がある

太平洋戦争に負けたこの国は、そのあと世界が驚くような経済復興を遂げます。Japan as No.1と言われて、自分たちもすっかりそう思い込んでしまった。勝ち続けたあとに慢心が生まれて、実戦を知らない世代に交代して、また同じ理由で沈んでいく。昭和初期とほとんど同じ流れです。

例えば、創業から十年、苦しい時期を一緒にくぐってきた幹部が、ある日まとめて世代交代したとします。会社の数字はしばらく変わらないかもしれません。でも何かトラブルが起きたときに踏ん張れるかどうかは、たぶん別の話です。経験の有無って、うまくいっているときには見えないんですよね。

同じ失敗はもう見たくないんですけどね。歴史はわりと律直にこのパターンをくり返します。

自社に置き換えると

ここまで読んで、自分の会社ではどうだろうと考えてみてほしいんです。今の幹部やリーダーは、修羅場をくぐってきた人たちでしょうか。それとも、順調な時期にしか仕事をしていない人たちでしょうか。あと、ここ数年連続で結果が出ているとしたら、それは実力なのか、たまたま向かい風が弱かっただけなのか。一度立ち止まって確かめる価値があると思います。社内でうまくいった話ばかりが語られて、失敗した話がタブーになっていないかも、気にしてみてほしいところです。

負けた理由を正面から見るのは、気持ちのいい作業じゃありません。でも成功の自慢話を何百回聞くより、一つの手痛い失敗を本気で振り返るほうが、会社は強くなると思います。もうこんな失敗はしたくない、ですからね。

中小企業の、味方でいたい

周南の9人の若者が、地元の中小企業の現場に入って一緒に考えます。若者・バカ者・よそ者の会社です。

RYDEENについて

(初出:逍雲夜話 2022年5月「失敗の本質」・文 杉岡茂 を再編集)


\ 最新情報をチェック /