小さくて強いバックヤードをつくる、という話
今年のIT補助金、ずいぶん使いやすくなりましたね。電子帳簿保存やインボイス制度を本格的に進めるのに合わせて、国も制度を大きく変えてきたようです。会計やレジ、給料計算といった、会社の裏側を変える後押しとしては、かなり効くはずです。
裏側のDXのほうが、実は大事
生産や販売の現場、会社のフロントを強くするDXはお金を生む部分ですから大事です。ここに異論はありません。でも今の日本の中小企業にとって、本当に手を入れるべきなのはバックヤードだと思っています。
会社が小さかったころの仕組みのまま、売上だけ伸びて大きくなった会社をたくさん見てきました。帳簿の付け方も、給料の出し方も、創業当時からほとんど変わっていない。社長さん自身、それに気づいていることも多いんです。ただ日々の忙しさの中で、手が回らない。
かといって、大企業みたいに立派すぎるバックヤードを持とうとするのも、違う気がします。人も予算も限られている中小企業が、大企業の真似をしても、重くて動かないものができるだけです。

「小さくて強いバックヤード」
目指したいのは、小さくて強いバックヤードです。変化のスピードに対応できる、機動力のある裏側。これさえあれば、社長さんは外に出て「社長の仕事」ができるようになります。
例えば、毎月の経理処理に3日かかっていた会社が、仕組みを整えて半日で終わるようになったとします。残った2日半、社長は何をするでしょうか。人を探しに行く。新しい取引先と会う。業界の情報を集めに行く。そこで初めて、チャンスをつかみに行けるようになるんです。
逆に言うと、バックヤードに社長や幹部の時間が吸われている会社は、外の情報がなかなか入ってきません。人材にせよ商売のネタにせよ、会社の外に出て集めてくるものです。社内の机に向かっている時間が長いほど、チャンスを取りに行く時間は削られていきます。自分の会社では、社長の時間はどちらに使われているでしょうか。
ルールが先、ツールは後
DXで必ず失敗するパターンがあります。先に道具を買ってしまうことです。
DXというのは、まず「ルール」、会社の仕組みや、どうやって儲けるかという事業のフレームを考え直すところから始まります。「ツール」、つまりパソコンやソフトはあとから入れるものです。ここの順番を間違えると、高いソフトを入れただけで終わります。
PayPayをはじめ、お金の受け取り方そのものが変わってきています。ツールを入れ替えるだけでは、儲けは変わりません。儲ける仕組みの方を変えないと、意味がないんです。
DXをやる人材は、天から降ってこない
DXを進める人、そして使い続ける人について考えてみます。まず認めたほうがいいことがあります。DXの専門家は、どこにもいません。
AIやクラウド、5Gといった技術は、ここ数年で急に広まったものです。日本はこの手の技術の導入がとくに遅れていて、これまでのベンダーさんやSEさんが持っている技術では、正直もう追いつきません。GAFAMやBATHが作った最新のソフトを使いこなせる人は、日本全体でもそう多くないんです。マイクロソフト365を使い倒せる人、社内に何人いるでしょうか。
だからまず、一人若い人を入れてみることです。新しい技術を自分たちで開発する必要はありません。「ありものを使う」でいい。使える人を、試行錯誤しながら社内で育てていくしかないと思います。人手不足と少子高齢化が進むこの先、DXをやらないという選択肢はなくなっていきます。今のうちに備えておくしかありません。もちろんコストはかかります。それでも、です。
自社に置き換えると
自分の会社のバックヤードは、創業当時の仕組みのまま大きくなっていないでしょうか。一度棚に上げて、見てみる価値があります。経理や総務にかかっている時間を、社長自身が今どれくらい使っているか、数えたことはあるでしょうか。もし今より半日、裏側の作業から自由になれたら、その時間を何に使うか。考えてみると、どこから手を入れるべきかが見えてくるはずです。
補助金の制度が変わるのは、国が「今やれ」と言っているようなものです。でも補助金はきっかけにすぎません。ルールを決め、人を育てる。そこまでやりきった会社だけが、ツールを手に入れた意味を持てるのだと思います。
・文 杉岡茂(初出:逍雲夜話 2022年4月「DXの行方 ⑶」を再編集)
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