勝ちすぎた人ほど、やり方を変えられない
この国は20年前、世界でいちばん豊かな国でした。それが今は30番目より下。悔しいけど、これは数字の話じゃなくて、やり方を変えられなかった人たちの話だと思っています。
一番豊かな国が、30番目より下になった
平成という時代は、ほんとうに苦しい時代でした。日本史上はじめてデフレを経験した時代です。物の値段が下がり続けるのを、国としてはじめて体験したんです。これがどれだけ異常なことか、今になって振り返るとよく分かります。
経営でも同じことが起きます。うまくいっているときほど、何かがおかしくなっても気づきにくい。成功している会社ほど、潮目が変わった瞬間を見逃しやすいんです。成功そのものが、次の変化を見えなくするわけです。
これ、たぶん「自信」の問題だと思うんです。うまくいった方法は、その人にとって単なる手段じゃなくて、自分の実力の証明になってしまう。だから手放すときは、やり方を変えるというより、自分を否定するような感覚になる。そりゃあ、なかなか変えられません。
例えば、ある商品がずっと売れ続けている会社があるとします。売れている間は誰も「このやり方、そろそろ古いんじゃないか」と言い出せません。売上が落ちてから気づいたときには、もう周りは次のやり方に移っています。

変われない年寄りリーダーたちと、ぼくもその一人
政治の世界も、経済の世界も、年を取った権威あるリーダーがいつまでも居続けます。彼らのやり方は、彼らの時代には間違いなく成功でした。でも遅くとも2000年ごろから、時代の潮目は完全に変わってしまったんです。
それでも彼らはやり方を変えようとしません。悪いことに、日本は世界一の長寿国になりました。年を取っても現役でいられる期間が伸びて、彼らはそのままリーダーの座に居続けられるようになったんです。
正直に言うと、ぼくもその「彼ら」に入りかけています。自分の成功パターンに自信を持ってしまう。これは年齢の問題じゃなくて、うまくいった経験がある人なら誰でも陥る罠だと思います。あなたの会社では、どうでしょうか。一番うまくいったやり方を、今も無意識に正解だと思い込んでいませんか。
DXを丸投げする人たちの話
自分たちの成功法則に自信があるから、今もそのやり方を続けようとする。わかりやすいのがDXです。AIやクラウドは、この5年くらいで急に広まった新しい技術です。なのに、時代遅れのベンダーさんやSEさんに「DXお願いします」と丸投げしてしまう。
うまくいくわけがないんです。今のデジタルの世界は、技術を新しく開発することより、もうあるものを使うことが中心になっています。自分で手を動かして試した人だけが、どれが使えるか分かる。人に頼んだ時点で、判断の根っこがずれてしまうんです。
例えば、毎年システムを一から作り込もうとする会社があるとします。何千万円もかけて、できあがる頃には、もう世の中はクラウドの新しいサービスに移っている。それなら最初から、安い既製のサービスを試した方が早いし安い。でも「作る」ことに価値を感じてきた世代には、この発想がなかなか馴染まないんです。
学歴という勘違い
彼らに続く下の世代も、理屈や理論ばかり学んで、経験や歴史を軽く見るようになりました。学校の成績がよかった人ほど、この傾向が強い気がします。
戦後70年で、この国はますます学歴を重んじる社会になりました。でも学歴は可能性でしかありません。実際に何ができるかと、学歴は直結しない。こんな単純なことを忘れてしまったのは、かなり大きな失敗だったと思います。
今のデジタル時代は、考えることも大事です。でもそれより、やってみることのほうがずっと大事。見る前に跳べ、です。
自社に置き換えると
自分の会社の「一番うまくいったやり方」は何でしょうか。それは今も正解でしょうか、それとも誰も言い出せないだけで、もう賞味期限が切れていないでしょうか。
新しい道具を試すとき、社内の誰かに丸投げしていませんか。経営者自身が触ってみないと、使えるかどうかの判断がつかないことは、意外と多いです。
そして、下の世代に経験や歴史を話す機会を、ちゃんと作れているでしょうか。理屈だけで育った人材は、現場で止まってしまうことがあります。
成功したやり方を手放すのは、怖いです。でも手放さなかった結果が、今の順位なんだと思います。ぼくも含めて、です。
・文 杉岡茂(初出:逍雲夜話 2022年5月「サクセストラップ〜成功のわな 」を再編集)
あわせて読みたい
- その経理の仕事、本当に誰かの役に立ってますか2026-10-05
- 時よ、飛んで行くことなかれ 還暦と初孫で気づいた老いの正体2026-10-04
- 六十年でひとめぐり、代替わりを考える2026-10-03