乙巳の年、先が見えなくても足元を固める
去年は大腸ガンの手術がありました。50日の入院を経て、年末には「いい年だったな」と思えた。何が変わったのか、経営者として少し書き残しておこうと思います。
75キロの身体が教えてくれたこと
高校時代以来の75キロに戻りました。血圧、血糖、コレステロール。どれもびっくりするくらい好転しました。手術というきっかけがなければ、こうはならなかったはずです。

入院中の50日間、病棟の1階にはコンビニとカフェがありました。一度も足を運ばずに過ごしました。今になって振り返ると、奇跡のような気がしています。あきらめずに一所懸命やってよかった。
変わったのは、主治医の先生との出会いがあったからだと感じています。「この先生に任せる」と決めたら、余計なことをしなくなった。専門家を信じて、自分の余計な判断を手放す。言葉にすると当たり前ですが、実際にやるのは難しいです。
経営でも似た話があります。例えば、信頼できる幹部に仕事を丸ごと渡すと決めたとします。社長が口を出さなくなったら、むしろ現場の判断が速くなったという話。「任せる」という決断は、意外と強い経営の手の一つです。
乙巳の年を三層で読む
今年は乙巳(きのとみ)の年です。ぼくは九星気学や干支を、経営の羅針盤の一つとして長年使っています。数字では捉えにくい時代の流れを感じるための道具として。
宇宙法則を表す十干「乙」には、右往左往しながらも断固改革を進めるという意味があります。自然法則を表す十二支「巳」はヘビで、次世代への準備をせよという意味を持ちます。人の気を表す「二黒土星」は、今後10年の基礎が固まる時期を示しています。
この三つを重ねると、「先が見えずとも未来を見通した歩みが新時代への基盤を築く」という言葉になります。もっと噛み砕くと、「あれこれ心配するより足元を固めよ」ということです。
「因習を断ち切る」は空気の話だ
乙巳のキーワードは過去との訣別です。これまでの因習を断ち切ること。言葉にすると清々しいですが、実際はかなり重い話です。
例えば、10年続けてきた販促方法を止めようとしたとします。数字で見ると効果は薄い。でも「ずっとやってきたから」という空気が社内に漂っている。それを変えるのは、正しさの問題ではなく、組織の空気の問題です。だから難しい。
だからこそ「右往左往しながらも」という表現が刺さります。みんながざわつく中でも、一歩ずつ進む。そういう年だということでしょう。迷いながら進むことが、今年の正解なのかもしれません。
あなたの会社で「やめたい」と思いながら、ずっとやめられていないものは何ですか。因習は、たいていそこに潜んでいます。
運勢が悪い時こそどっしり構える
九星気学では、今年は一白水星と九紫火星が強い年とされています。七赤金星は最も難しい位置です。自分の星が弱い年はどうするか。
「もっとしっかりどっしり腰を据えてがんばる」しかない、と思っています。これは精神論ではありません。運気が弱い時に無理に攻めると、ぶれ幅がどんどん大きくなる。守りを固めながら基礎を積む年にするということです。
例えば今年が自分にとって運勢の難しい年だとします。そういう時は、新しいことに手を出すより、今あるものを磨く年にする。売上を伸ばすより、利益率と仕事の質を見直す年にする。焦らないことが最大の戦略です。
自社に置き換えると
去年、やめようとしてやめられなかった「因習」は何でしたか。今年こそ手放せるとしたら、どこから始めますか。
10年後の基盤になる仕事と、惰性で続けている仕事を分けるとしたら、自社のどこに線を引きますか。
「足元を固める」という言葉は簡単に出てきます。でも、自分の会社の足元が具体的にどこにあるか、いますぐ言い切れますか。
手術から戻ってきて強く感じたのは、入院前と同じことをしていたら何も変わらないということでした。身体も、会社も、たぶん同じです。迷いながらでも、どっしり構えながら、今年も一歩ずつ進んでいきます。
・文 杉岡 茂(初出:逍雲夜話 2025年1月「乙巳」を再編集)