ツールから入ったDXは、だいたい失敗する

DXって言葉、もう耳にタコができるほど聞いたと思います。でも中小企業の現場では、まだ「よくわからないまま流行りのツールを入れて、それで満足してしまう」というケースが多いです。今回は、DXがうまくいく会社とこけてしまう会社の分かれ道を、二つの視点から整理してみます。

ツールから入ると、だいたい失敗する

DXの失敗で一番多いのは、焦ってツールに飛びついてしまうパターンです。クラウドの会計ソフトを入れた、チャットツールを入れた、それだけで満足してしまう。でも道具を変えても、仕事の流れそのものが昔のままなら、結局何も変わりません。

なぜこうなるのか。考えてみると当たり前の話で、ツールは「今のやり方」をそのまま電子化するだけの道具だからです。肝心の「ルール」、事業のしくみが古いままだと、新しいツールはその古いしくみに合わせて使われてしまう。せっかく速くて賢い道具を入れたのに、わざわざ遅いやり方で使っているような状態になります。

例えば、注文を受けてから出荷するまでの手順が、担当者の頭の中にしかないまま何十年も回っている会社があるとします。そこにクラウドの受発注システムを入れても、結局は「担当者に電話で確認する」というもう一つの手順が残ってしまう。ツールが仕事を増やしただけ、ということになりかねません。

だからこそ、ツールを選ぶ前に、まず事業のしくみそのものを見直す。どの仕事をなくせるか、どの順番を変えられるか。ここを先にやらないと、DXはだいたい形だけで終わります。自分の会社では、ツールを決める前に「仕事の流れ」から話し合っていますか。

現場の抵抗と、「サクセストラップ」

DXの失敗で二番目に多いのは、現場の抵抗です。人は自分の環境が変わることを、基本的に望みません。これは今の仕事に慣れている人ほど強く感じることで、別に悪気があるわけじゃないんです。長年うまくやってきたやり方を急に変えろと言われたら、誰でも身構えます。

ここで頼りになるのが、若い人の力です。正社員じゃなくても構いません。パートさんでもバイトくんでもいい。新しいやり方に抵抗がない人の力を借りる。年齢だけの話じゃなくて、まだこの会社のやり方に染まっていない人が強いということだと思います。

もう一つ気をつけたいのが「サクセストラップ」、成功者の罠です。昔うまくいったやり方に、いつまでもしがみついてしまう。悔しいけれど、世の中がこれだけ変わっている以上、昔の成功がそのまま通用する時代じゃないんです。

新しい目で世の中と自分の会社を同時に見る。言うのは簡単ですが、これが一番難しい。長く同じ会社にいればいるほど、自分の会社の「当たり前」が見えなくなっていきます。外の人に自分の会社を眺めてもらう、くらい思い切った手を使ってもいいかもしれません。社長さん自身が、自分の成功体験を手放せるかどうか。ここにかかっている気がします。

フロントとバックヤード、インターネットの本性

もう一つの視点が「フロント&バックヤード」です。フロントは生産部門、儲ける部門のことです。バックヤードは管理部門、儲けを生まない部門のことです。世の中で話題になっているDXが、フロント向けの話なのか、バックヤード向けの話なのか。ここを分けて考えるだけで、DXが少し身近に感じられるはずです。

DXの正しい順番 ルール 事業のしくみを決める 先に ツール 道具を選ぶ フロント 儲ける部門(生産) バックヤード 管理部門(非生産) どちらも、ルール→ツールの順番は変わらない

ただ、フロントでもバックヤードでも、順番は変わりません。まず事業のしくみ、ルールを考える。そのうえでツールを選ぶ。この順番を飛ばしていい場所はどこにもありません。

DXの土台は、結局ITです。社長さんは、ITで何ができるかを自分の頭で勉強しておく必要があります。ITはインターネットという仕組みを前提にしていますから、「インターネットの本性」を三つ、頭に入れておきましょう。メーカーとお客さんを直結してしまう、中抜きの力。少数の人でも集められる力。そして地域を越える力です。海外にものを売るときも、この力が働きます。

この三つの力を知っているだけで、自社のどこにインターネットを使えるか、見えてくるものがあります。今から起きるDXは、下手をすると後発の若い会社が、先行していた会社を一気に追い抜く下克上を招きます。悔しいけれど、のんびり構えていい時代ではなくなってきました。

自社に置き換えると

自分の会社のDXは、ツールの話から始まっていないか。一度振り返ってみてください。導入の順番が「まずツールを決めて、それから使い方を考える」になっていたら、それは危険信号です。

現場で一番抵抗しているのは誰か。その人に若い人の力を借りる余地はあるか。パートさんやバイトさんの中に、新しいやり方を面白がってくれる人はいないか、考えてみる価値があります。

自分の会社の「フロント」と「バックヤード」、それぞれどこにITを使えそうか。中抜きの力、少数者を集める力、地域を越える力のうち、自社にいちばん効きそうなのはどれか。一度紙に書き出してみると、思っていたより選択肢が見えてくるかもしれません。

DXは、道具の話じゃなくて、仕事のしくみをどう作り直すかという話です。悔しいけれど、ここをすっ飛ばした会社から、順番に足踏みしていく気がします。

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・文 杉岡茂(初出:逍雲夜話 2022年4月「DXの行方 ⑵」を再編集)


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