原稿を捨てられる社長は、会社を変えられる

中小企業の生産性を上げたいなら、DXは避けて通れません。社員一人当たりの利益を上げる責任を負っているのは、社長しかいないからです。でも最近つくづく思うのは、デジタルの話をする前に、もっと大事なことがあるということです。それは「LIVEライブ感覚」というものです。

生産性を上げる責任は、社長にしかない

生産性という言葉はわかりにくいですが、要するに社員一人当たりがどれだけ利益を生んでいるか、という話です。これがそのまま給料につながります。会社が成長して生産性が上がらなければ、社員さんは幸せになれません。

ぼくがいつも引っかかるのは、この「生産性を上げる責任」を背負えるのは社長しかいない、という点です。現場の社員さんがどれだけがんばっても、仕組みや方向を決めるのは社長の仕事です。中小企業のDXを避けて通れないというのは、きれいごとではなく、ここから来ています。

例えば、ベテランの職人さんが一人で頑張って生産性を上げようとしている会社があるとします。その職人さんがどんなに腕を上げても、会社全体の生産性はそう大きくは変わりません。変わるのは、社長が仕組みを変えたときです。DXという言葉はカタカナで小難しく聞こえますが、やっていることはそれだけのことなんです。

原稿を読むと、人は離れていく

ぼくはセミナーや講演で、できるだけ原稿やレジュメを用意せずにしゃべるようにしています。たまに用意しても、その通りにしゃべることにどうしても抵抗があって、結局レジュメを無視してしゃべってしまう。事前のアナウンスと実際の内容がずれて、聞いてくださった方に物足りない思いをさせたことも、正直たくさんあると思います。

なぜこんなことをするのか。Whatを伝えるかより、Howで伝えるかの方が大事だと思っているからです。情熱が伝わらないと、どんなに正確な内容でも右から左へ流れていく。メモも、できるだけ取ってほしくないと思っています。メモを取っている間、人は聞くことをやめてしまうからです。

RYDEENのメンバーにホワイトボード使いの天才がいます。パワポと似ていますが、まったく別物です。パワポは事前に準備された完成品で、ホワイトボードはその場で生まれていく。LIVEライブ感覚という意味では、この差はとても大きいんです。

ロックバンドの舞台で学んだこと

ぼくはHELPというロックバンドでライブ活動をしてきました。そこで学んだのは、歌詞を間違えずに歌うことより、覚えている部分を繰り返してでも、ハミングでごまかしてでも、勢いで最後まで突っ走ることの方が大事だということです。

歌を上手に歌っても、熱い想いを持って勢いで歌いきらないと、何も伝わらないし、広がらない。精神とか魂が伝わらなければ、せっかくメモに取ったありがたい内容も、ただの紙になって終わってしまう。これ、経営者が人前で話すときにも、まったく同じことが起きていると思います。

例えば、社員さんに新しい方針を伝えるとき、きれいな資料をそのまま読み上げる社長がいるとします。内容は正しい。でも読み終わった瞬間に、社員さんの頭からその内容が消えていく。一方で、資料もメモもなく、言葉につまりながらも本気で語る社長の話は、何年たっても覚えられている。やる気や進取の精神こそが、学習の基礎だからです。

社長の言葉 原稿を読む 原稿を捨てて話す 内容は正確 だが熱は伝わらない 多少不正確でも 熱が伝わる 記憶から消える 記憶に残り、広がる

内容の正確性より、本質や真髄を受け取ってもらうことの方が、リーダーにとってはるかに大事なことだと、ぼくは思っています。

自社に置き換えると

自分の会社で、朝礼や会議のとき、資料を読み上げていないか。一度振り返ってみてほしいです。社員さんに一番伝えたかったことは、話し終わった後、何日たっても覚えてもらえているでしょうか。熱量を持って話せた場面が、この一年でどれだけあったか、思い出してみてもいいかもしれません。

LIVEライブ感覚というのは、デジタルの対極にあるようで、実はデジタル時代だからこそ必要になったものだと思います。画面越しでも、資料があっても、結局人を動かすのは熱量です。原稿を捨ててしゃべれるかどうか、今日の会議でちょっと試してみてください。

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文・杉岡茂(初出:逍雲夜話 2021年12月「Livist」を再編集)


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