啓蟄、虫より遅れて動き出す経営者にならないために
「啓蟄」と書いて「けいちつ」と読みます。新暦の3月5日ごろ。冬の間、土の中で丸まっていた虫たちが、暖かさを感じてのそのそ這い出してくる季節です。ぼくは毎年このニュースを見るたびに、これって経営者の話でもあるよなと思っています。
啓蟄という季節に、虫も社長も外に出る
啓蟄は二十四節気の第三番目。桃の花が咲き、うぐいすが鳴く。冬に閉じていたものが一斉にひらいていく節目です。虫は気温が上がったから出てくるわけではありません。土の中にいながら、外の気配を感じ取っている。暖かくなってから動くのでは、実は遅いんです。動き出すのは、変化が来る前です。
経営もこれと同じだと思っています。景気が良くなってから設備投資を決める。人手が足りなくなってから採用を始める。それ、虫よりも動きが鈍いです。虫は土の中にいても外を感じ取っているのに、こっちは目の前の数字しか見ていない、ということがよくあります。
例えば、取引先の発注が減り始めているのに、まだ大丈夫だろうと様子を見ている経営者がいるとします。土の中の虫の方が、よほど敏感に地上の気温を測っている。そう考えると、ちょっと悔しくなりませんか。

陽気が上がるとき、体は血が足りなくなる
啓蟄の頃、体の中では肝陽の気が上がる一方で、陰血が不足しがちになるそうです。伸びやかに成長しようとする力と、それを支える血が追いつかない。だから養生が要る、という話です。
これ、会社の成長期にそっくりです。売上が伸びる、案件が増える、店を増やす。気は上がっているのに、それを支える人手や資金や現場の体力が追いついていない。成長そのものは悪いことじゃないんです。ただ、支える血が足りないまま伸びようとすると、どこかで倒れます。
自分の会社は今、気だけが先に上がっていないでしょうか。売上の伸びに、キャッシュや人の余力はちゃんとついてきていますか。
導引式で、普段動かさない経絡を伸ばす
啓蟄の導引式では、手の陽明大腸経を伸ばします。人差し指から腕の外側を通り、肩から首筋、鼻の横、額を通って顎まで続く経絡です。息を吸いながら体を前に倒し、両手を後ろから下へ伸ばし、頭はできるだけ上へ。普段は意識しない場所を、季節の節目にわざわざ伸ばすわけです。
会社にも、普段は誰も触らない経絡みたいな場所があります。長年見直していない仕入れルート。誰も文句を言わないから放置している業務フロー。固まったままの経絡は、伸びやかさを失っていきます。啓蟄はその凝りを、季節を口実にほぐすタイミングだと思うんです。
例えば、社長が10年間ずっと同じやり方で見積もりを作っているとします。誰も疑問に思っていない。でもそれ、一度伸ばしてみたら、意外と固まっていたと気づくかもしれません。
何を取り込むか、真剣に考えているか
啓蟄の頃は薄味の食べ物で新陳代謝を促し、肝臓と脾臓を助けるといいそうです。桃の節句の時期でもあるので、蛤やネギ。花粉症の季節だから、体を温める生姜や暖かいスープも。春の気も、旬の食べ物も、結局は体の中に取り込むものです。何を取り込むか一所懸命に考えるかどうかで体の状態が違うのだとしたら、やっぱり真剣に考えた方がいいですよね。
会社に取り込むものも同じです。どんな情報を仕入れるか。どんな人を採るか。どんな取引先と組むか。何となく入ってくるものをそのまま取り込んでいる会社と、選んで取り込んでいる会社とでは、何年か経つとまるで体質が違ってきます。
暖かくなっていく季節なのに、体を温める食べ物を摂る。これ、よく考えると冷え性対策と同じことをしているんですよね。季節が良くなってきたから安心、ではなく、良くなってきたときこそ足元を温めておく。経営でも、業績が上向いてきたときほど、財務を締めておく方がいいのかもしれません。
自社に置き換えると
虫が地上の気配を土の中で感じ取っていたように、自分の会社は市場の気配をどこで感じ取っているでしょうか。数字が悪化してから気づくのか、その前の小さな兆しで動けているのか。売上が伸びているとき、それを支える人と資金の血は足りているでしょうか。そして、長年誰も触っていない経絡のような業務やルールが、社内のどこかで固まったままになっていないでしょうか。一度、棚卸ししてみる価値はあると思います。
啓蟄は、動き出すための季節です。虫は暖かくなってから動くのではなく、暖かくなる気配を感じて動きます。経営者もきっと同じで、数字が良くなってから動くのでは、もう遅いのだと思います。
(初出:逍雲夜話 2023年3月「啓蟄 二/二十四節気」・文 杉岡茂 を再編集)
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