処暑に、経営の呼吸を整える
もうすぐ処暑です。新暦でいうと8月23日ごろ。暑さが峠を越えて、少しずつ涼しい日が混ざってくる時期です。ぼくはこの季節になると、毎年同じことを思います。会社も体も、急に変わるものじゃないなと。
暑さが抜けるのは、一気にじゃない
処暑の「処」は「去る」という意味だそうです。暑さが去っていく、と。ただし実際には、暑い日と涼しい日が交互にやってくる。一日で秋になるわけじゃない。

経営もこれとよく似ています。うまくいかない時期からいい時期に切り替わる瞬間なんて、実はほとんどありません。悪い月と良い月が混ざりながら、じわじわと潮目が変わっていく。ぼくは何度も、まだ暑い日に「もう秋だ」と勘違いして、次の手を急ぎすぎて失敗しました。
例えば、売上がふた月続けて伸びたとします。ここで一気に人を増やしたり、設備投資に踏み切ったりしたくなる。でも、それがたまたま良い日が混ざっただけなのか、本当に季節が変わったのか。見極めるには、もう少し我慢して観察する時間が要ります。
養生の基本は「徐々に慣らす」ことだと言われます。経営の変化も同じで、急に舵を切ると体を壊す。会社にも同じことが言えると、ぼくは思っています。
変わり目に、弱いところが出る
季節の変わり目には、アレルギー体質の人ほど症状がはっきり出るそうです。普段は隠れている弱いところが、環境の変化で表に出てくる。
これも会社にそのまま当てはまります。景気が良い時、忙しい時は、多少の無理や歪みは隠れて見えません。ところが繁忙期が終わって落ち着いた瞬間、辞める人が出たり、クレームが重なったり、資金繰りがきしんだりする。変わり目は、会社の体質検査みたいなものです。
原文にあるように、味噌や醤油、ぬか漬けといった昔からの発酵食品は、体質を整える腸内細菌を作ると言われます。会社で言えば、日々の小さな習慣にあたるのかもしれません。派手な改革より、毎日の朝礼や、月次の数字の見直しといった地味な積み重ねが、変わり目に効いてくる。
忙しい時期にこそ無理を重ねて、落ち着いてから体調を崩す。そんなパターンが御社にもないか、一度考えてみてください。
ひきかけたら、深く息を吐く
風邪をひきかけたら、深い呼吸がいいと原文にあります。コツは、まず息を全部吐き切ってから、ゆっくり吸うこと。吸うことばかり考えると、うまくいかない。
経営でも同じことが起きます。焦っている時ほど、新しいことを詰め込みたくなる。新規事業、新しい人材、新しいシステム。でも先に手をつけるべきは、今抱えている無駄な仕事や、続ける意味を失った取引を整理することの方かもしれません。
例えば、体調を崩しかけた社員が一人いるとします。そこに新しい仕事を足すのではなく、今持っている仕事のうち何を減らせるか考える。経営者がまずやるべきなのは、たぶんこっちです。
自然の気を浴びに山や海へ行くという話も、原文にはありました。ぼくは正直、経営者ほど「休むこと」を後回しにする生き物はいないと思っています。早寝早起きで整えるという当たり前のことすら、繁忙期には真っ先に消えます。
味が濃くなるほど、内臓は疲れる
この時期の食べ物は銀杏や大根、びわがいいとされます。ただ最近の料理は味が濃く、複雑になっている。濃い味付けは塩分の取りすぎになり、肝臓や腎臓を疲れさせると原文は指摘しています。
経営の打ち手も、これによく似ています。会社を長くやっていると、施策がどんどん濃く、複雑になっていく。制度を増やし、評価の軸を増やし、ツールも増やす。足していくばかりで、減らすことをしない。
気づけば、社員も自分も、何のためにやっているのか分からない仕組みに疲れている。塩分と同じで、濃い味は最初はおいしく感じます。でも歳を取るほど、じわじわ効いてくる。
シンプルな判断軸を持っている会社ほど、変わり目を乗り切るのがうまいと、ぼくは見てきました。
自社に置き換えると
この夏、忙しさにかまけて後回しにした地味な習慣はなかったか。朝礼、日報、月次の数字の確認。派手な施策の裏で、これらが抜け落ちていないか、一度見直してみる価値はあります。
落ち着いた時期に限って社員が辞めたり、体調を崩したりする傾向が、御社にはありませんか。もしあるなら、それは繁忙期の無理が変わり目に表れているだけかもしれません。
今、会社の施策は足す一方になっていないか。減らす、やめる、を最後に決めたのはいつだったか、思い出してみてください。
処暑は、暑さの峠を越えたけれど、まだ気を抜けない時期です。経営もきっと同じで、良くなってきた実感があるときほど、急がずに深呼吸すること。ぼくは今年も、涼しい日が混ざり始めたのを感じながら、そんなことを考えています。
・文 杉岡茂(初出:逍雲夜話 2023年8月「処暑 十四 / 二十四節気」を再編集)
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