雨水に思う、元気なうちの手入れ

雨水という、地味だけど大事な合図

2月19日ごろ。二十四節気でいう「雨水」です。降っていた雪が雨に変わり、雪解け水がちろちろと流れ出す。そんな時期です。まだ雪深い土地も多いし、これから雪が降る地域もあります。それでも昔の人は、この水音を聞いて農耕を始める目安にしてきました。土の中では、もう春の支度が始まっているからです。

やわらかな日差しの中、草木がほんのり色づく。春霞がかかった日には、なんとも言えず幸せな気分になります。天地の間に、生気があふれてくる。そういう節気だと昔から言われてきました。

「元気なうちの養生」がなぜ効くのか

東洋医学でいう養生は、病気をしていないときにやるものだそうです。体力のある人はつい無理をする。逆に病弱な人は無理をしない。だから養生が効くのは、実は元気な人の方だったりします。

これ、経営にもそのまま当てはまる話だと思います。調子がいい会社ほど、手入れを後回しにする。数字が伸びているときに、わざわざ社内の仕組みを見直そうとは思わない。業績が落ちてから慌てて手を打とうとしても、体力がない状態で無理をするようなものです。

例えば、受注が途切れない会社があったとします。忙しいから、経理も採用も「今は無理」で先送りにする。そのうち受注が落ち着いたころには、直すべき仕組みが山積みで、しかも直す体力が残っていない。養生を怠った体と、よく似ています。

調子がいいときに、あえて時間を使う。地味だし、成果もすぐには見えません。それでも「楽しくできることが毎日ひとつづつでも増えていく」というイメージを持てるかどうか。分かれ目はそこにある気がします。

汗をかくかかかないか、くらいの運動でいい

雨水の養生では、激しい運動より、ゆっくりした運動がいいとされます。汗をかくかかかないかくらい。気候の変化に体が慣れるまでは、冬着もまだ脱がない方がいい。

会社の手入れも、たぶん同じくらいの強度がちょうどいいんだと思います。改革だ変革だと肩に力を入れると、たいてい長続きしません。社員もついてこられない。汗だくになるまで頑張る施策より、毎週30分だけ数字を見直す、月に一度だけ現場の声を拾う。そのくらいの温度でいい。

季節が変わっても、いきなり薄着にはしません。環境が変わっても、いきなり全部のやり方を変えなくていい。少しずつ慣らしていく。そのほうが結局長く続きます。

ひな祭りの膳に、余白を見る

この時期の行事といえば、ひな祭りです。ちらし寿司にハマグリ、手毬麩のお吸い物。器も華やかなものを使いたくなる。春キャベツやからし菜も、この季節ならではです。

忙しい経営者ほど、こういう季節の楽しみを後回しにしがちです。でも、ちらし寿司を彩りよく盛り付けるのに、そんなに時間はかかりません。仕事に追われている自覚がある人ほど、こういう小さな余白を意識的に作った方がいいのかもしれません。

社員も同じです。忙しい時期こそ、ちょっとした行事や季節の話題を社内で共有できるか。それだけで場の空気は変わります。

自社に置き換えると

今の自分の会社は、忙しい時期でしょうか、落ち着いている時期でしょうか。落ち着いているなら、そこでしか手をつけられない仕組みの見直しが、後回しになっていないでしょうか。

改善や改革という言葉を使うとき、それは汗だくになるほどの負荷を社員にかけていないでしょうか。もう少し弱い強度で、長く続けられるやり方に変えられないでしょうか。

数字を伸ばすこと以外に、社内で季節の話題や小さな行事を共有する余白は、今の会社にどれくらい残っているでしょうか。忙しさを理由に、削ってしまってはいないでしょうか。

雪解け水の音は、静かです。気づかなければ、聞き逃してしまう。会社の中にも、同じような小さな音があるはずです。調子がいいときほど、耳を澄ませておきたいと思います。

中小企業の、味方でいたい

周南の9人の若者が、地元の中小企業の現場に入って一緒に考えます。若者・バカ者・よそ者の会社です。

RYDEENについて

・文 杉岡茂(初出:逍雲夜話 2023年2月「雨水 二/二十四節気」を再編集)


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