いちばん暑い日に、自分から変わる
大暑は、新暦でいうと7月23日ごろ。夏の最後の節気です。真夏日と熱帯夜がいよいよ本気を出してくる時期で、月末には各地で花火大会が始まります。花火と浴衣、あと金魚すくい。「夏の風物詩」という言葉は、たぶんこの三つのためにあるんじゃないかと私は思っています。
一年でいちばん暑い日に
暑さのピークだからこそ、雷も暴風雨もこの時期に集中します。天気予報を見ながら、ああ今年もこの季節が来たな、と毎年同じことを思います。年をとってもこの感覚だけは変わりません。

正直に言うと、暑い盛りにアイデアがどんどん出るかというと、そんなことはないです。むしろこの時期は、体力を守ることのほうが先に来る。経営も同じで、勢いだけで乗り切ろうとすると夏の終わりに息切れします。
冬の不調を、夏のうちに片づける
東洋医学には、この長い夏を使って、冬のあいだに体にたまった「寒さ」を追い出すという考え方があるそうです。お灸をすえて、体の奥の寒さと湿気を早めに払っておく。冷え性の人にとっては、実は一年でいちばん治療がしやすい季節なんだとか。
これ、経営にもそのまま当てはまる話だと思っています。会社の不調というのは、たいてい調子のいい時期に種がまかれて、調子の悪い時期に表面化します。人が辞める、資金が足りなくなる、取引先とこじれる。原因は、忙しくて誰も気にしていない時期に生まれていることが多い。
例えば、繁忙期に「まあ今は仕方ない」で流したクレームがあったとします。そのときは処理できても、閑散期に入ったとたん、同じお客さんからもっと大きな話になって返ってくる。寒さは、暖かいうちに追い出しておかないと、寒くなってから追い出すのは何倍もつらいです。
御社の中に、今は調子がいいからと後回しにしている「寒さ」はありませんか。人の問題も、設備の問題も、忙しいときほど気づきにくくできています。
「自分も変わる、相手も変わる、まわりも変わる」
大暑の養生では、熱中症を避けるため散歩は朝か夕方に、という話が出てきます。そして歩きながら自分のことを考えるのもいい、とも。易の教えに「自分も変わる、相手も変わる、まわりも変わる」という言葉があるそうです。
この言葉、最初に読んだときは当たり前すぎて素通りしそうになりました。でも歩きながら考えると、意外と重い。経営者はどうしても「相手を変えよう」「まわりを変えよう」と考えがちです。社員の意識を変えたい、取引先の条件を変えたい、市場の空気を変えたい。自分が変わるという選択肢は、いちばん後回しになります。
なぜかといえば、自分を変えるのがいちばん怖いからだと思います。相手を変える提案は、失敗しても「相手のせい」にできる余地が残ります。自分を変えるとなると、逃げ場がありません。
例えば、ずっと同じやり方で採用してきた会社が、応募が減って困っているとします。求人媒体を変え、条件を上げ、それでも来ない。そこで初めて「面接で自分がしゃべりすぎているのでは」と気づけるかどうか。まわりを変える前に、自分を変える余地はないか。
歩きながらでいいので、一度立ち止まって自分のことを考える時間、最近ありましたか。
自社に置き換えると
忙しい時期に見て見ぬふりをしている小さな不調、御社にありませんか。人手不足かもしれないし、社長自身の体調かもしれません。
相手や環境のせいにしている問題のうち、実は自分のやり方を変えれば動くものは、どれくらいあるでしょうか。
季節が変わっていくのを、最後にちゃんと感じたのはいつでしょうか。忙しさに追われていると、夏がいつの間にか終わっていた、ということが増えていきます。
豆腐やそうめん、冷やしたトマト、そろそろ出始めるさんま。原文には、夏から秋、そして冬へと季節が移っていくのを楽しむ、とありました。会社の一年にも、同じように季節があります。忙しい夏のうちに、冬の分の手当てをしておく。それだけで、次の冬に見える景色は少し変わる気がしています。
(初出:逍雲夜話 2023年7月「大暑 十二 / 二十四節気」・文 杉岡茂 を再編集)
あわせて読みたい
- 債務超過でも会社は売れるのか。買い手が見ている数字2026-08-31
- 「卒近代」という話、会社もそろそろオーケストラになっていい2026-08-31
- 兄弟の事業承継で温度差があるとき、誰が決めるのか2026-08-31