小暑、汗をかきすぎる社長へ
新暦でだいたい7月7日ごろ。梅雨が明けて、ここから本格的に暑くなっていきます。二十四節気でいう「小暑」です。毎年この時期になると、ぼくは決まって同じことを思います。社長ってやつは、会社の数字より先に自分の体が赤字になっているんじゃないか、と。
汗の季節、暑中見舞いのタイミングが揺れている
小暑から立秋(8月7日ごろ)までに出すのが暑中見舞い、立秋を過ぎたら残暑見舞い。昔からの決まりです。でも実際、律儀にこの通りにしている人はそんなに多くありません。だいたいお盆までは暑中見舞い、盆を過ぎたら残暑見舞い。そういう感覚で運用している人のほうが多い気がします。

暦のルールって、本当はもっと緩やかに運用されているものなんだと思います。決まりごとを作った人の意図と、使う人の生活実感が、少しずつずれていく。会社のルールにも似たところがあります。たとえば、創業当初に作った経費精算のルールが、10年経っても誰も見直さないまま、現場は独自の運用でなんとか回している。そういう会社、けっこう多い気がします。
暑中見舞い一つとっても、正しさより「みんなが納得できる運用」のほうが長生きします。ルールを作るとき、そこまで考えている経営者は案外少ないものです。
汗をかきすぎると、気も体力も減る
小暑のころは汗が大量に出て、気を消耗しやすい時期だそうです。だから解熱と防暑、体力を保つことが大切。軽い運動をするといい、と原文にはあります。
これ、経営にそのまま置き換えられる話だと思っています。夏の暑さで体力が削られるように、繁忙期や資金繰りのきつい時期は、経営者の気力がじわじわ削られていきます。しかも本人は気づきにくい。汗と一緒に体力が抜けていくのと同じで、判断力も少しずつ抜けていくからです。
たとえば、資金繰りが厳しい月が3ヶ月続いたとします。数字は持ち直したのに、社長本人の顔つきがなんだか暗いまま。そういうこと、ありませんか。体力の消耗は、数字が戻ったからといってすぐには戻らないんですよね。
原文は「軽い運動をすることをおすすめします」と、わりとあっさり書いています。でも経営者の実感としては、この「軽く」がいちばん難しい。追い込まれているときほど、休むこと自体に罪悪感が出てくるからです。心が静かで気血が穏やかなら、暑さも涼しく感じられる。心頭滅却すれば火もまた涼し、というやつです。理屈はわかります。でも、追い込まれてるときにそれができるかというと、また別の話です。
肺経を伸ばす、あの妙に丁寧なストレッチ
原文には、小暑の引導式として手の太陰肺経を伸ばす体操が紹介されています。手の親指から肘の内側、上腕の内側を通って腋の下、そこから胸の中まで続く経絡だそうです。読んだだけでは正直、ぼくもよくわかりません。
やり方はこうです。息を吸いながら軽くしゃがみ、両手を体の前から上に上げつつ、片足を一歩前に出す。前足の膝は曲げて、後ろ足の膝はしっかり伸ばす。胸を大きく開いて、両腕を後ろに伸ばす。ここで肺経が引っ張られます。そして息を吐きながら体を正面に戻し、前足も戻す。左右交代で、自分の体調に合わせて繰り返します。
細かい手順ですが、要は「吸って伸ばして、吐いて戻す」の繰り返しです。この呼吸のリズムを作る発想、組織運営にも通じるところがある気がします。ずっと気を張ったままでは続きません。伸ばして、戻す。緊張と弛緩を交互に作ること自体が、体力を保つコツなんだと思います。
会社でいえば、繁忙期のあとにきちんと閑散期を作る。決算のあとに一息つく日を決めておく。そういう「戻す」タイミングを、意図的にカレンダーへ入れている経営者はどれくらいいるでしょうか。
丑の日の「う」と、言い伝えの効き目
丑の日には「う」のつく食べ物がいいとされています。うり、うなぎ、うどん。脾が弱って貧血になりやすい時期でもあるので、うなぎや肉、ひじき、ほうれん草もいい。あさりやカレイもいいそうです。
うなぎを食べる習慣は、平賀源内が友だちのうなぎ屋を助けるために考えた方便だとばかり思っていました。でも調べてみると、ちゃんとした言い伝えがもとになっているんですね。ぼくの中の常識が一つひっくり返りました。
これ、けっこう示唆的だと思っています。広まった話の裏に、たまたま覚えやすい語呂合わせがくっついていただけで、中身自体は根拠のあるものだった。逆に言うと、根拠のある話でも、語呂やキャッチーさがないと広まらないということでもあります。
たとえば、自社の商品やサービスに、地味だけど確かな良さがあるのに、覚えやすい一言がないせいで伝わっていない。そういうもの、ありませんか。「う」の一文字がうなぎの言い伝えを何百年も生き延びさせたように、伝え方の工夫は中身と同じくらい効いてきます。
自社に置き換えると
この時期、自分の体力がどれくらい削られているか、数字みたいに毎日測っている経営者は少ないと思います。今月、自分は何回「軽い運動」を後回しにしたか。休むことに罪悪感を感じていないか。繁忙期のあとに「戻す」日をカレンダーに入れているか。一度、自分の体力の決算書を作ってみるのもいいかもしれません。
あと、自社の商品やサービスに、うなぎの「う」みたいな覚えやすい一言はついているでしょうか。中身がよくても、伝わる形になっていなければ、丑の日を何百回迎えても広まりません。
小暑は、本格的な夏の入り口です。ここで無理をすると、立秋を迎えるころにはもう息切れしています。会社を支えているのは結局、社長の体力です。数字を追う前に、まず自分の汗の量をちゃんと見てあげてください。
・文 杉岡 茂(初出:逍雲夜話 2023年7月「小暑 十一 / 二十四節気」を再編集)
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