八十八夜が教えてくれる、忙しくなる前にやるべきこと
「穀雨」という言葉、聞いたことありますか。二十四節気でいう春最後の節気で、穀物を育てる雨が降る時期のことです。立春から八十八日目の夜のことを八十八夜といって、あの茶摘みの歌にも出てきます。今日はこの、地味だけどよくできた暦の話から始めさせてください。
米という字ができる日
八十八夜は、この日に摘んだお茶を飲むと長生きすると言われている日です。八と十と八を並べると、米という字になります。だから農業にとっては縁起のいい日とされてきました。
これ、正直ただの語呂合わせです。でも、よくできてるなと思うんです。数字の並びに勝手に意味を見つけて、みんなで「今日はいい日だ」と思って動く。理屈より先に、気持ちが動く仕掛けです。
会社の中にも、こういう「区切り」があると強いと思います。月初でも期首でも創業記念日でもいい。理由は後付けでも構いません。人間は、節目がないとなかなか立ち止まれない生き物だと思うんです。

穀雨のころは雨が降って、花が咲いて、木々が茂ってくる時期です。陽気がぐんぐん伸びていく一方で、陰気は少しずつ弱まっていく。暦の上ではもう春の終わりで、次に来るのは夏です。
陽気が伸びる、いまのうちに
この時期は肝臓と腎臓を休ませて、脾臓と胃の働きを促すといいそうです。夏を元気に越すための土台を、いまのうちに固めておこうという考え方です。
これ、経営にもそのまま当てはまる話だと思います。繁忙期に入ってから体制を整えようとしても、たいてい間に合いません。人を採ろうにも教育が追いつかないし、資金繰りも急には直らない。土台というのは、忙しくなる前の静かな時期にしか作れないものです。
例えば、夏に向けて注文がぐっと増える会社だとします。繁忙期に入ってから「人が足りない」と気づいても、そこからでは遅い。穀雨にあたる、いまの落ち着いた時期にこそ、次の山を越えられる体制を仕込んでおく。順番を間違えると、どれだけ頑張っても追いつかない状態になります。
御社の場合、今は土台を固める時期でしょうか。それとも、もう勢いよく動く時期でしょうか。この二つを一緒くたにしてしまうと、どちらも中途半端になる気がします。
汗をかきすぎない工夫
朝の運動は自然の気を取り込むいい方法だけど、汗をかきすぎて陽気を漏らさないように、と原文にはあります。湿気の多い時期は潤性の食べ物を避けたほうがいい、よもぎの草餅や納豆、味噌汁、蜂蜜がいい、とも。
これ、経営者としては耳が痛い話です。私自身、忙しくなってくると「もっとやれる」と思ってしまうタイプなので。でも、いちばん踏ん張らなきゃいけない夏の前に力を使い切ってしまったら、元も子もありません。
紹介されていた導引式という体の動かし方も面白くて、片方の腕を上げながら息を吸って、下ろしながら吐く。これを左右交互に繰り返すというものでした。片方だけをずっと伸ばし続けるんじゃなくて、交互にやる。ここに意味がある気がします。
会社の中でも、営業だけをずっと追い込む、現場だけをずっと酷使する、というやり方は長続きしません。片方を伸ばしたら、もう片方も伸ばす。交互に、ゆっくりと。
自社に置き換えると
御社では、繁忙期に入る前の静かな時期を、ちゃんと使えていますか。忙しくなってから慌てて手を打つのではなく、いまのうちに固めておける土台があるはずです。資金繰りかもしれないし、人の教育かもしれません。
社内で「ここだけずっと負担がかかっている」場所はありませんか。営業、現場、経理。どこか一箇所に無理をさせ続けていないか、たまには点検してみてほしいです。
八十八夜のような、社内独自の「区切りの日」はありますか。理由は後付けでいいんです。立ち止まって考える日を、意図的に作っている会社は強いと思います。
穀雨は地味な節気です。でも、夏を元気に越せるかどうかは、この時期の過ごし方で決まる気がしています。忙しくなってから頑張るんじゃなくて、いまのうちにちゃんと根を張っておく。それだけで、夏の乗り越え方はだいぶ変わってくると思います。
・文 杉岡茂(初出:逍雲夜話 2023年4月「穀雨 六/二十四節気」を再編集)
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