債務超過でも会社は売れるのか。買い手が見ている数字
決算書を見て、「うちは債務超過だから売れません」と肩を落とす社長に、何度も会ってきました。でも、それで終わりと決めつけるのは早いかもしれません。買い手が見ているのは、決算書の数字だけではないからです。
債務超過は「簿価」の話。買い手が見るのは実態と稼ぐ力
債務超過というのは、決算書の上で資産より負債が多い状態を指します。これは会計のルールに沿って計算した「簿価」の話です。会社の値打ちを丸ごと表しているわけではありません。

M&Aの現場でよく聞く相談があります。「うちは債務超過だから買い手なんてつかない」というものです。ところが実際に調べてみると、事業自体は黒字で、しっかりお金を稼いでいることがあります。買い手が本当に見たいのは、決算書の見た目ではなく、その会社が今後もお金を生み続けられるかどうかです。
同業の会社が買い手になる案件では、この傾向がはっきり出ることがあります。相乗効果を見込んで、将来のキャッシュフローをもとに値段を考えるからです。決算書のマイナスだけを見て諦めてしまうと、こうした話が始まる前に終わってしまいます。
決算書と実態がずれる理由はいくつかある
なぜ決算書の数字と、会社の実態がずれるのでしょうか。理由はいくつかあります。よくあるのが、売れる見込みのない在庫を、そのままの値段で資産に計上しているケースです。
売掛金も同じです。取引先が実質的に払えない状態なのに、帳簿の上ではそのまま資産として残っていることがあります。逆に、土地のように昔買った値段のままになっていて、今の時価だと含み益が出ている場合もあります。
役員や従業員の退職金を、決算書に十分に計上していない会社も見かけます。これは将来払うお金なので、今の帳簿には出てきません。でも、いずれ会社から出ていくお金です。こうした項目を一つずつ洗い直すと、決算書の数字とはかなり違う姿が見えてきます。
仮に、決算書の純資産がマイナス5000万円の会社があるとします。在庫を実際に売れる値段で見直し、回収できない売掛金を落とし、土地を今の時価に直し、退職金の見込み額を反映する。それだけで、実態の純資産はプラスに変わることもあれば、マイナス幅がぐっと縮まることもあります。
営業利益が出ているなら、借入の組み方を見直せる
決算書が債務超過でも、本業でしっかり利益が出ている会社は少なくありません。この場合、今の借入をそのまま抱え続けるのではなく、返し方を組み替える相談ができることがあります。
銀行への返済計画を、今の利益水準に合わせて作り直す。返済期間を延ばしたり、返済額を利益に見合う額に調整したりする。こうした借換の相談は、金融機関に事情を説明できれば、応じてもらえる場合があります。
このとき大事なのは、「返せる根拠」を数字で示すことです。営業利益から、これから必要な設備投資や税金を引いて、実際に返済に回せるお金がいくら残るか。ここを丁寧に計算して見せると、話がぐっと進みやすくなります。
いくらまで背負えるか、先に逆算しておく
借入を組み替える相談をするなら、先に自分たちで「いくらまでなら無理なく返せるか」を出しておくと話が早いです。何年で返すか、年にいくら返すか。この二つを決めれば、背負える借入の上限が見えてきます。
仮に、年間の返済に回せるお金が2000万円で、10年で返す計画だとします。単純に計算すれば、背負える借入は2億円前後という目安が立ちます。もちろん、金利や設備投資の必要額によって変わりますが、こうした逆算をしておくと、銀行との話し合いでも、買い手との交渉でも、根拠のある数字で話せます。
この逆算をせずに交渉に入ると、相手の言い値に振り回されがちです。先に自分の会社の「返せる力」を数字にしておくことが、交渉の土台になります。
自社に置き換えると
うちの決算書の債務超過は、本当に実態を表しているだろうか。在庫や売掛金、土地、退職金の見込み額を今の目で洗い直したら、数字はどう変わるだろうか。読み替えてみると、見え方が違ってくるかもしれません。
本業の利益は、今の借入をきちんと返せる水準にあるだろうか。年にいくらまでなら無理なく返済に回せるか、一度計算してみるとどうだろうか。この二つの問いに答えが出せると、次の一手が見えてきます。
債務超過だからといって、売れない会社と決めつける必要はありません。決算書の数字を実態に直し、返せる力を数字で示せれば、条件を整えて渡せる会社になることもあります。まずは決算書を、簿価ではなく実態の目で見直すところから始めてみてください。税理士や専門家に相談しながら進めるのが安心です。