医療法人を譲るときに見る数字。清算後の時価純資産という考え方

医院を譲る話が具体的になると、必ず出てくるのが値段の付け方です。株式会社の株価算定とは前提が違う場面が多く、最初のつまずきになりやすいところです。持分の有無や、いま清算したらいくら残るかという発想から、順に見ていきます。

持分あり、持分なし。渡し方がまるで違う

医療法人には、大きく分けて持分ありの社団医療法人と、持分なしの医療法人があります。持分ありなら、出資している分を株式に近い形で譲ることができる場合があります。持分なしだと、そもそも譲れる持分そのものが存在しません。

相談に来た理事長も、最初はここを整理できていませんでした。自分の法人がどちらのタイプか、定款を確認したことがないという方は少なくありません。定款に出資持分の定めがあるかどうかで、選べる手段が変わってきます。

持分ありの法人であっても、譲る値段が高すぎると、剰余金の分配とみなされるリスクがあります。医療法人は剰余金の配当が禁止されているため、ここは慎重に扱う必要があります。適正な評価額を積み上げて、説明できる形にしておくことが大事です。

評価の土台は、いま清算したらいくら残るか。簿価と時価の差

医療法人を譲るときの値段は、いま解散したらいくら残るか、という時価純資産の考え方が土台になります。仮に帳簿の上で1億円の法人だとしても、それがそのまま評価額になるわけではありません。

建物に付いている内装や設備、いわゆる造作の部分は、帳簿の金額と実際に売れる金額が大きくずれることがあります。簿価で7000万円と書いてあっても、実際に買い手がつく値段は3000万円ほど、という仮の例で考えると分かりやすいと思います。逆に、帳簿より高く売れる資産もあります。

有価証券も同じです。運用商品の簿価が3800万円だとしても、いま解約したときの時価は6500万円ということもあります。含み損の場合も含み益の場合もあるので、金融機関から時価の資料を取り寄せて確認する作業になります。

保険の積立金を解約したときの金額、借入金の残高、役員への退職金の見込み額。こうしたものを全部足し引きして、最後に残る金額が時価純資産です。こういう相談はよくありますが、帳簿の数字だけを見て自分の法人の価値を思い込んでいる理事長は少なくありません。

含み益には税金がつきます。手取りで見る

簿価より高く売れる資産があると、そこには含み益が生まれます。含み益が出た分には税金がかかる場合があるので、評価額を計算するときは税引き後の手取りまで見ておく必要があります。

有価証券を時価で売って含み益が出た場合も、固定資産を売って利益が出た場合も同じです。仮に含み益が3000万円出たとして、そこに税金が乗ると、手元に残る金額は思ったより少なくなります。

資産の売却先が法人の関係者だったりすると、値段の付け方によっては寄附金として扱われるリスクも出てきます。簿価と大きくかけ離れた金額で売買する場合は、その値段の根拠を説明できるようにしておいた方がいいです。

持分を譲る側にも、別に税金がかかります。持分譲渡による利益には、譲渡所得としての課税がある場合があります。税率や計算の仕方は個別の事情によるので、ここは必ず税理士に確認してください。

相手が個人か法人かで、使える手が変わる

譲る相手が個人なのか、別の医療法人なのか、それとも一般の会社なのかによって、使える手段や税務上の扱いは変わってきます。

例えば法人が持っている不動産を個人に貸す場合、賃料の水準が市場から離れすぎると、税務上の指摘を受けることがあります。地代なら評価額の6%程度が目安になる、という考え方もありますが、これも案件ごとに確認が要ります。

譲渡の相手が法人だと、グループ間の税制など別の制度が絡んでくる場合もあります。相手が個人の理事長候補なのか、別の医療法人グループなのかで、事前に準備する資料も変わってきます。

承継は持分を渡すだけでは終わりません。社員や役員の構成を変える手続き、都道府県への届出や認可、保険医療機関の指定の引き継ぎなど、法務や許認可の手続きが一式ついてきます。ここを甘く見て、後から慌てる法人を何度か見てきました。

評価額までの流れ 簿価の 純資産 時価に 洗い替え 含み益に 課税 手取りの 評価額 帳簿の数字ではなく、清算したときに残る金額から逆算する

自社に置き換えると

自分の法人が持分ありなのか持分なしなのか、定款を見返したことはありますか。建物の内装や設備、保有している金融商品を、いま時価に直したらいくらになるか、把握できていますか。譲る相手が個人か法人かで使える手段がどう変わるか、専門家に相談したことはありますか。

医療法人の承継は、株式会社の株価算定とは前提が違います。帳簿の数字を鵜呑みにせず、清算したらいくら残るかという発想で、一度時価に洗い替えてみることをお勧めします。そのうえで税金を引いた手取りの金額を見て、初めて等身大の評価額が見えてきます。

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