中小企業は、ゆるく手を組む時代に入った
世の中の変化はもうずっと激しいです。中小企業の経営者がこの変化をどう受け止めるかで、会社の行方はかなり変わってくる。「こりゃ大変だ…」と肩を落とす社長と、「よっしゃ、なんでも来い」と前のめりになる社長。同じ時代を生きていても、この二人の会社はまったく違う道を歩むことになります。
「大変だ」と「なんでも来い」、社長の受け止め方で会社は変わる
中小企業は会社力イコール社長力だと、ぼくは思っています。大企業なら仕組みや組織が支えてくれる部分もありますが、中小企業はそうはいかない。社長がどう考えるかが、そのまま会社の体温になる。
なぜそうなるのか。中小企業には余力が少ないんです。人も時間も資金も、ギリギリでやっている会社が多い。だから経営者の判断ひとつが、会社全体の空気を決めてしまう。社長が下を向いていれば、社員も下を向く。社長が面白がっていれば、社員もどこかで面白がり始める。

例えば、同じように売上が落ちた会社が二つあるとします。片方の社長は「もうダメだ」と縮こまって、取引先への連絡も後ろ向きになる。もう片方の社長は「今までのやり方が合わなくなっただけだ」と割り切って、新しい相手に会いに行く。半年後、この二つの会社の差はかなり開いているはずです。
変化を嫌がらずに、「こんな時代に巡り会えてお腹いっぱい幸せだ」くらいに思えるかどうか。ここが最初の分かれ道になります。
情報は発信した人のところに集まる
変化に合わせて会社を変えていくには、やることは二つしかないと思っています。ひとつは情報に触れること、発信すること。もうひとつは、いろんな人や会社の得意技を結びつけること。ジョウホウとヒト、この二つです。
情報については、ひとつだけ覚えておいてほしいことがあります。情報は、もらいに行くものじゃなくて、発信した人のところに集まってくるものだということ。自分から何も出さずに「いい情報ないかな」と待っている人には、結局何も入ってきません。発信してみると、あらら不思議、向こうから情報がやってくる。
もう一つ大事なのは、集めた情報をただ持っているだけじゃダメだということ。自社の利益になるように使えるかどうか。スパイ映画や三国志の諜報戦みたいな話までいくと大げさですが、世界のIT業界を見ていると、情報の取り合い自体がもう戦いになっている。中小企業も、情報をただ眺めているだけの立場から、使う立場に回らないといけない。
発信すること自体がしんどい、恥ずかしいという経営者も多いです。でも発信しない限り、情報は向こうからは来ません。ここは腹をくくるしかないところだと思います。
結合はガチッとではなく、ゆるく
もう一つのヒト。コロナの何年かで、人と人の距離は確実に遠くなりました。その流れに乗って距離を置き続けるか、あえて逆らって近づいていくか。どちらもあり得ますが、ぼくは日本人らしく「結合」に向かう方に賭けたいと思っています。和をもって尊しとする、というやつです。
得意技を持っている中小企業の社長さんは、実はたくさんいます。趣味人が多いですからね。自分の意思で自立して生きたい人が集まって会社を立ち上げているわけですから、当たり前といえば当たり前です。社長だけじゃなく、社員の中にも職人芸を持っている人がたくさんいる。これは中小企業の強みだと思います。
ただ、得意技を持った人や会社を結びつけるときに、ひとつだけ気をつけたいことがあります。結合はガチッと固く固めてしまうより、緩やかであるほうがいい。がっちり組んでしまうと、どちらかが潰れたときに両方倒れます。緩やかに結びついていれば、片方が傾いても、もう片方は立っていられる。
例えば、ある職人技を持った町工場と、営業力のある別の会社が手を組むとします。合併してひとつの会社になってしまうと、文化の違いでぎくしゃくすることも多い。でも、お互い独立したまま、ひとつの仕事だけ一緒にやる関係なら、無理なく長続きします。
ユニット事業という「ちょうどいい間」
RYDEENでは、この緩やかな結合を「ユニット事業」と呼んで進めています。テーマは「ちょうどいい間のとりかた」。M&Aもユニットの一つの形だと思いますが、それぞれ自立した会社が、新しいものをつくるという目的のために一時的に和を組む。これがユニット事業です。
「間」という言葉、日本語にしかない感覚だと思います。近すぎず、遠すぎず。この間のとりかたが、日本人はもともと得意なはずです。茶室の間合いとか、落語の間とか、そういう文化を持っている民族なんですから。
日本の中小企業が、ちょうどいい間で集まって、知恵と技を出し合って新しいものを創り出す。そんな光景を見たいと思っています。中小企業の生き筋は、このユニット事業と海外展開にしかないんじゃないかと、正直思っています。鳴神道場のOBたちとも、これを一番の課題として話しています。
自社に置き換えると
自分の会社に、まだ誰にも見せていない得意技はないでしょうか。それを外に向けて発信したことは、一度でもあったでしょうか。社内にいる職人芸を持った社員、その技をどこかの会社の弱点と組み合わせたら、何が生まれるか考えてみたことはあるでしょうか。合併やM&Aだけが答えとは限りません。もっとゆるい、ちょうどいい距離の組み方を探ってみる価値はあると思います。
変化の大きさにため息をつくか、面白がるか。そこから全部が始まります。ぼくは面白がる側に立ちたいし、そう思える社長が増えてほしい。中小企業が一社一社だけで踏ん張るのではなく、ちょうどいい間を見つけて手を組んでいく。そんな景色を、もう少し先まで見てみたいです。
・文 杉岡茂(初出:逍雲夜話 2021年7月「ユニット事業」を再編集)
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