後継者のいない会社を、誰が好きになってくれるのか

「RYDEENって、雷電の意味なんですか」と聞かれることがよくあります。はい、その通りです。でも由来を話すと、結局いつも後継者の話に行き着いてしまうんです。

社名に雷の名前をつけた理由

RYDEENという社名、元ネタはYMOの曲です。YMOは細野晴臣さん、坂本龍一さん、高橋幸弘さんの3人が組んだテクノバンドで、当時は世界の音楽シーンの最先端を走っていました。その代表曲が「RYDEEN」です。

RYDEENの語源は雷電、雷のことだそうです。今はもう雷は科学で説明がつきますが、大昔の人たちにとっては空が光って大きな音が鳴る、理屈では説明できない現象でした。だから神様の仕業だと思われていました。万葉集にも柿本人麻呂の歌としてこんな一首が載っています。「鳴神の少し響みて降らずとも吾は留らん妹し留めば」。雷が確かに聞こえるね、雨が降らなくてもぼくはここにいるよ、あなたが望むなら、という歌です。

雷を神が鳴らすものとして「鳴神」と呼ぶ、この言葉の感じが好きで、ずっと心に残っていました。新海誠監督の「言の葉の庭」もこの歌をモチーフにした作品です。

知識は多ければいいってもんじゃない

ぼくが後継者たちに伝えたいのは、理屈や理論より志や心意気です。経験や事実のほうがずっと大事だと思っています。「世界一の武器を持っていても、それを使う知恵や勇気がなければ世界一のガラクタ」という言い方をよくします。経営の技術や知識も同じです。どれだけたくさん持っていても、それを動かす人の志や感情がちゃんとしていなければ、使いものになりません。知って行う、知行合一ということです。

ここでよく勘違いされるんですが、経営技術や知識はたくさんあればいいわけじゃありません。必要なものだけ、最小限でいいんです。なぜかというと、余計な知識や道具をいっぱい持っていると、いざという場面で機敏に動けなくなるからです。例えば、工具箱に百本の工具が入っていたとします。でも現場でとっさに手が伸びるのは、使い慣れた三本くらいのものです。残りの九十七本は、持っているだけで棚の奥でホコリをかぶっています。経営の知識も似たところがあって、増やすことに熱心な社長ほど、いざという決断の場面で手が止まる、ということがよく起きます。

だからぼくは「捨てる技術」も大事なテーマだと思っています。経営のOS、会社の基本構造を、RyOSという小冊子にまとめて、道場で解説しています。みなさんの会社は、知識を増やす方にばかり力を入れていませんか。捨てる方の棚卸しは、最近いつやりましたか。

後継者のいない会社が半分という現実

鳴神道場を始める前、20年ほど前から「夜話塾」という勉強会をやっていました。二宮尊徳の「尊徳夜話」を少しずつ読み進めることから付けた名前です。30歳そこそこで中小企業のお世話を始めた頃、相手にしていたのは社長さんたちで、ほとんどが自分の親と同じ世代でした。

いつか、しかし思ったより近いうちに、この人たちは経営の現場を去っていく。そして次の世代が後を継ぐ。そのことにある日気付いてしまったんです。だったら後継者の世代と一緒に経営を勉強した方がいいんじゃないか。そう思い立ったのが夜話塾の始まりでした。

鳴神道場も、後継者を中心にした若手経営者の養成を得意技にしています。経営のビギナー向けセミナーだと思ってもらえればいいです。ただ、今の中小企業の現状は本当にお粗末です。後継者のいない会社が、もう半分あります。

子供が好きにならない会社を、誰が好きになってくれるんでしょうか。後継者というのは、会社を一番近くで、一番長く見てきた人です。その人が継ぎたいと思えない会社に、外から来た人がほれ込むなんてことは、まず起きません。だから中小企業は、後継者の養成にお金と時間と労力を、惜しまずかけるべきだと思っています。今の社長さんに聞きたいんですが、後継者の育成にかけている予算と、新しい機械や設備にかけている予算、どっちが大きいですか。

自社に置き換えると

自分の会社の後継者は、今の会社をどう見ているか。一度ちゃんと聞いたことがありますか。聞くのが怖くて、避けている社長さんも多い気がします。経営の知識や仕組みは、増やす一方になっていないか。棚から下ろして捨てる作業を、ここ数年やっていますか。後継者に使う時間とお金は、今のところ十分だと言えますか。それとも、本当は足りていないのを分かっていて、今日まで後回しにしてきましたか。

雷は昔の人には理屈で説明できないものでした。でも、鳴る前には必ず空が少し曇るし、音も少しずつ近づいてきます。後継者が会社を離れていくときも、たぶん同じです。前触れは、きっとずっと前から鳴っています。聞こえているかどうかだけの話です。

会社の先を、考えはじめたら

後継者のこと、株のこと、社員の雇用のこと。まだ決めていない段階のご相談がいちばん多いです。社名を伏せたままで構いません。

会社を譲ることを考えはじめた方へ

・文 杉岡茂(初出:逍雲夜話 2021年8月「鳴神道場」を再編集)


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