親の会社の借金は子どもが背負うのか 個人保証と相続の関係を整理する
経営者が亡くなったあと、家族から必ずといっていいほど聞かれる質問があります。「会社の借金は、うちの子が払うことになるんですか」。個人保証の書類に見覚えがある家族ほど、この不安は大きくなります。相続放棄をすれば逃げられるのか、そもそも何から手をつければいいのか、順を追って整理します。
会社の借金と個人の借金は別物、が原則
会社が金融機関から借りたお金は、会社の債務です。株式会社でも合同会社でも、法律上は会社と経営者は別の人格として扱われます。ここまではシンプルです。
ところが中小企業の融資では、ほとんどの場合、経営者個人が連帯保証人になっています。銀行や信用金庫が融資するとき、代表者に個人保証を求めるのが長年の慣行でした。2014年にできた「経営者保証に関するガイドライン」以降、保証を外す動きは少しずつ進んでいますが、まだ多くの中小企業で保証は残っています。
ここが誤解の入り口です。「会社の借金」と「経営者の個人保証」は別の話なのに、一緒くたに考えてしまう家族が多いです。経営者が亡くなると、会社の借金そのものではなく、この個人保証が相続の対象になります。
個人保証は相続される、が実感としてのポイント
相続の相談でよく聞かれるのが、「保証人の地位も相続されるんですか」という質問です。答えは、原則として相続されます。保証人としての支払い義務は、亡くなった方の財産と一緒に、法定相続人(配偶者や子どもなど、法律で決まっている相続の権利を持つ人)に引き継がれます。
例えば、父親が会社の代表者で、銀行融資1億円の連帯保証人だったとします。父親が亡くなると、相続人である配偶者や子どもが、法定相続分(法律で決まっている取り分の割合)に応じてこの保証債務を引き継ぐことになります。会社の経営に関わっていない子どもでも、相続人である以上は対象から外れません。
ここでよく混同されるのが根保証です。限度額の範囲で将来発生する分も含めて保証する契約のことで、相続開始後に新しく発生した借入までは対象外になるのが一般的ですが、契約書の書き方次第で扱いが変わります。契約内容の確認は欠かせません。

会社 相続放棄という言葉が指しているもの
検索でよく見かける「会社 相続放棄」という言葉ですが、正確には「会社だけを相続放棄する」という制度はありません。相続放棄は、亡くなった方の財産と負債のすべてをまとめて放棄する手続きです。会社の株式や借金だけを選んで放棄することはできません。
相続放棄をすると、プラスの財産(預金、不動産、会社の株式など)も、マイナスの財産(個人保証を含む借金)も、両方まとめて手放すことになります。「保証だけ嫌だから放棄したい」という相談をよく受けますが、良いとこ取りはできない仕組みです。
手続きには期限があります。家庭裁判所への申述は、自分が相続人になったと知った日から3ヶ月以内が原則です(2026年時点の制度です。期間の数え方や延長の可否は個々の事情で変わるので、実際の手続きは家庭裁判所や司法書士・弁護士に確認してください)。この期間はあっという間に過ぎます。葬儀や各種手続きに追われているうちに、気づいたら2ヶ月半、というケースをよく見ます。
相続放棄をすると会社そのものはどうなるか
ここでつまずく人が多いのが、「自分は放棄しても、会社は残る」という感覚のずれです。相続人全員が相続放棄をすると、株式の持ち主も、代表者になる人もいなくなります。会社の運営自体が止まってしまいます。
取引先や従業員がいる会社であれば、放棄による影響は本人が思っている以上に大きいです。仕入先への支払い、従業員の給与、リース契約など、会社を動かしている糸が一気に絡まります。相続放棄は自分の身を守る手続きであって、会社を守る手続きではないと理解しておく必要があります。
事業を続けたいのか、清算したいのかによって、取るべき道は変わります。事業を残す前提なら、保証をどう引き継ぐか、金融機関と保証の見直しを交渉できないか、という話になります。清算する前提なら、放棄以外に会社の解散・清算という選択肢も出てきます。どちらも税務や法律の判断が絡むので、税理士や弁護士との連携が必要です。
限定承認という中間の選択肢
「全部もらうか、全部捨てるか」の二択がしんどい、という声もよく聞きます。そこで出てくるのが限定承認という制度です。相続財産の範囲内でだけ借金を返す、という条件つきの相続方法です。
例えば、会社の株式や不動産にどれくらい価値が残っているか読めない、けれど個人保証の額は大きい、という状況だとします。限定承認を使えば、財産が保証債務を上回っていれば差額を受け取れますし、下回っていてもそれ以上の負担は生じません。
ただし限定承認は、相続人全員が足並みをそろえて申述する必要があり、財産目録の作成など手間もかかります。実務ではあまり選ばれない制度ですが、会社の資産価値が読めないときの選択肢として知っておく価値はあります。制度の詳細は年度や個別事情で変わる部分があるので、必ず専門家と最新の情報を確認してください。
自社に置き換えると
ここまでの話を、自分の会社に当てはめて考えてみてください。まず、代表者である自分は、金融機関の融資にどれだけ個人保証をつけているか、金額も含めて把握できていますか。
次に、もし自分に何かあったとき、家族はその保証の存在をすぐに知ることができますか。契約書がどこにあるか、残高がいくらか、家族に伝わっていない会社は少なくありません。
最後に、後継者に会社を引き継ぐ計画があるなら、保証をどう引き継ぐか、経営者保証ガイドラインを使って保証を外せないか、金融機関と話したことはありますか。
保証と相続がからむ話は、法律の話であり、会社の先行きの話でもあります。合同会社RYDEENでは、事業承継やM&Aの入り口として、こうした保証や借金の状況を経営者やご家族と一緒に洗い出すところから支援しています。税務や法律の最終判断は、税理士や弁護士と連携しながら進めます。
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